知る⑤しょっつる

水揚げされたハタハタに塩を加えてタンクに入れると、内臓から出る酵素の力で徐々に分解されていき、3年かけて熟成する。すくい上げて見せてもらうと、どろどろになったペーストの中に骨が残っていた。
上澄みはハタハタのアブラ。その下にペースト状になった層、液体の層がある。年に2~3回は攪拌の作業を行う。

秋田の伝統的な発酵調味料であるハタハタの「しょっつる」は、日本海産のハタハタと塩だけで作られる魚醤のこと。熟成した魚のうまみを感じられ、独特の風味がクセになる。

絶滅の危機を救った醸造元の挑戦
【諸井醸造】

1930年に醤油の醸造元として創業した〈諸井醸造〉。ホウロウ製の看板が今も軒先に残る。’50年代に味噌の醸造もスタートし、その後は漬物づくりも行っている。

「塩魚汁」と書いて「しょっつる」。能登の「いしる」、香川の「いかなご醤油」と並ぶ、日本三大魚醤のひとつだ。江戸時代の初期から作りはじめられたとされ、かつて秋田の家庭に一本はあったしょっつるだが、絶滅の危機に瀕した時期もあった。1960年代まで県内に25軒ほどあったしょっつる業者が、70年代以降のハタハタ漁獲量の激減により、90年代には2~3軒にまで減ってしまったのだ。

工場にあった大きな石は、しょっつるの材料をプレスするための重石として使われるという。普段は片隅に置かれているだけだが、それでも抜群の存在感を放っていた。

男鹿市にある創業89年の〈諸井醸造〉は、その危機を救った醸造元のひとつ。醤油や味噌、漬物づくりを行ってきたが、三代目の諸井秀樹さんが90年代にしょっつるづくりをはじめた。

出荷前のタンクが並ぶ。2013~15年頃に仕込んだものがこちらにある。液化しているので、ここに熱を加えて殺菌し、火入れ、濾過して瓶詰にされる。

「秋田の伝統的な調味料を知ってもらいたいという思いからはじめました。当時はハタハタの全面禁漁中で、ハタハタを使ったしょっつるが出回っていなかったんです。本物がどんなものなのかすらわからない、手探り状態でのスタートでした」

出荷前、もろみが表層に浮いている状態。骨は底に沈み、液体になっている。もろみはアンチョビに近い風味だという。

98年にしょっつるの研究会を立ち上げると、本格的な開発に取り組んだ。その頃、ベトナムのニョクマムやタイのナンプラーなどの魚醤が知られるようになり、においで敬遠されていたしょっつるにも、スポットライトが当たろうとしていたのだ。

完成したしょっつるは、さらっとしている。しょっつる鍋はもちろん、煮物、焼き物、炒め物など、オールマイティーに使える調味料だ。

そこから、オーソドックスなしょっつるだけでなく、10年熟成させた「十年熟仙」や、イワシと昆布だしを加えた「魚トトミー」、エビやタイで醸造した商品なども登場。新たな価値をプラスしたしょっつるは、秋田の食卓にまた並びはじめている。

諸井醸造
仕込み蔵の見学なども受け付けている。電話、またはメール(info@shottsuru.jp)にて、要予約。JR男鹿駅から徒歩10分、船川港のすぐそば。
秋田県男鹿市船川港船川字化世沢176
☎0185-24-3597
営業時間:10:00~16:00
定休日:第2、4土・日・祝