知る②いぶりがっこ

燻製場でミズナラの木を焚き、生の大根を燻しているところ。火の加減を見ながら2~3日かけて燻すという。このときは、1300本もの大根を吊るしていた。

秋田名物といえば、県外でも比較的入手しやすい、「いぶりがっこ」をイメージする人も少なくないのでは? 嚙むほどに燻製の風味が広がる、秋田の漬物です。

日照時間が少ない秋田ならではの漬物
【井上農産】

いぶりがっこの最大の特徴である、スモーキーな風味をつけるための大事な作業をここで行っている。黒くすすけた燻製場は、ミズナラを焚いた燻煙の香りで充満していた。

大根の漬物といえば「たくあん」が有名だが、秋田ではそれよりも「いぶりがっこ」が主流。というのも、日照時間が少なく、雪深い秋田では、天日干しすると大根が凍ってしまうため、たくあん作りには適していないのだ。そこで、秋田の人たちは考えた。囲炉裏の上に大根を吊るして燻してみよう、と! ちなみに「がっこ」とは、秋田の方言で「漬物」の意味。

井上農産の農園で採れた大根。植える品種を変えることで収穫時期をずらすことができるので、年間を通して安定的にいぶりがっこを製造できるという。自社農園を持つことの強みだ。

取材に訪れたのは、7月の暑い時期。一般的には大根の収穫が終わった秋から冬にかけて作られるいぶりがっこだが、大仙市の〈井上農産〉では、自社農園で品種の異なる大根を栽培しているため、安定的に製造できるという。

「今の時期は大根なんて全然ないよ!」と言いつつ、工場長が案内してくれた自社農園には、大根がたくさん栽培されていた。これが秋田の人にとっては「全然ない」状態なのだと思うと、やっぱり規模が違う。

「自分とこの大根だから、形が悪いのも全部使うんだ。やっぱり秋冬が一番うまいけど、四季折々の味だと思って楽しむのもいいべね」と、代表取締役の井上時雄さんは話す。

燻し終えた大根を、塩と米ぬかに漬ける工程。手作業でぬかをまぶしていた。このあと、大根の水分がしみ出てきて乳酸発酵する。
長い間、寝かせていた大根をぬか床から取り出したら、水洗いしてぬかを落としていく。このあと、大根の両端を切り落としてガス抜きする工程もある。

製造工程は、まず生の大根を燻製にし、塩と米ぬかに漬けて乳酸発酵させる。漬ける期間は、秋冬の時期で60日ほど。その後、ぬかを洗い流して80℃の湯で殺菌し、水で冷ますと、いぶりがっこが完成する。

均等な厚みで切られたいぶりがっこ。作業工程を見てからだと、フォルムや色合いまでが愛おしい。味見させてもらうと「ポリッポリッ」と、いい音を立てた。

「発酵が進んですっぱいのも、酒粕と和えたり、福神漬けにしたりすればおいしくなるから」と、工場長の吉田ゆみ子さん。クリームチーズと合わせるだけじゃないアレンジが、まだまだありそうだ。

井上農産
井上農産のいぶりがっこ「いぶりの里」は、県内外のスーパーなどで入手可能。ナチュラルチーズといぶりがっこを合わせた「ちーずがっこ」も製造している。
秋田県大仙市内小友字山根89-4
☎0187-68-2242