30歳女性に憑依した死者20人を、どう「除霊」したか?

宮城県「通大寺」金田諦應住職に聞く
奥野 修司 プロフィール

「今から私が光に導くお経をあげるから、本堂に行きますか?」と尋ねると、男は「行く」という。それならと、ぐったりしている弘子さんを抱えて本堂に向かうが、気が変わったのか行きたくないのか、身悶えしたり体をつっぱらせたりして抵抗した。

体を硬直させるものだから、とても歩いては行けない。仕方なく弘子さんを引きずるようにして本堂まで連れて行った。

宮城県栗原市にある、曹洞宗の寺院「通大寺」

ご本尊の前に座らせたが、なおも金田住職を疑っているのか、「お前にできるのか」とうめくように尋ねた。しかし住職は「できる、任せておけ!」と言い切って経を唱えた。

太鼓を叩いて経を読み始めたが、なおも男は「うっ!」「うぉ~」と苦しそうに悶えた。読経の間も、憑依している男が苦しさを訴えると、経を中断して語りかけた。

うめき声の間隔が延び、やがて静かになった。

最後に洒水といって清めの水をかけると、弘子さんは我に返ったように宙を見つめた。すでに時計は午前1時を過ぎていた。

 

「単にお経を唱えて儀式をするのではなく、その前に5時間も6時間も死者と対話するわけです。対話で死者をある程度納得させてから儀式に入るわけですから、どうしても長い時間がかかります」

憑依が解けたあと、弘子さんは「私、精神病ですか?」と言った。多重人格かと思ってずっと悩んでいたという。しかし金田住職は「そうじゃない。繊細な感性を持った1人の人間です」といった。それは嘘ではなく、そう思うしかなかったという。そのひと言で、弘子さんは安堵したようだった。

20名以上が1人の人間の中に

その数週間後、また弘子さんがやってきた。今度は子供の声だった。

「ごめんなさい、ごめんなさい! お母さん、ごめんなさい」

「どうしたの?」

「ヨッちゃんの手を離してしまった。お母さん、ごめんなさい。怒らない? ねえ、怒らない?」

憑いた霊が子供の場合、金田住職の妻が弘子さんの手を握って母親の役をする。このときもそうだった。「お母さん、ここにいるから大丈夫だよ」と安心させながら、子供の霊にどういう状況で亡くなったのか聞けるだけ聞いた。

津波が来たとき、お母さんに逃げろと言われたのだろう。この子はまだ幼い弟のヨッちゃんの手を繋いで逃げたようだ。しかし、途中で弟の手を離してしまう。その直後だった。弟もろとも、あっという間に津波に呑み込まれてしまった。

妻に弘子さんの手をしっかり握ってもらいながら、金田住職はあやすように言った。

「ほら、お母さんが一緒だから大丈夫だよ。お母さんは怒らないから、光の国へ一緒に行こうね」

しばらくぐずっていたが、「光の輪をくぐろうね」と何度も声をかけていると、

「お母さん、ぼく、もう大丈夫、1人で行けるから」

はっきりそう言うと、握っていた妻の手を離して去っていった。後で妻の手を見ると、真っ赤に腫れあがっていたという。