30歳女性に憑依した死者20人を、どう「除霊」したか?

宮城県「通大寺」金田諦應住職に聞く
奥野 修司 プロフィール

死者と住職の対話

夜の寺は闇につつまれ、静まり返っていた。

弘子さんは疲れたように机に突っ伏していたが、しばらくするといきなり男の声に変わり、「ワカナ! ワカナ!」と叫び始める。たしかに弘子さんの口から出ているが、まぎれもなく野太い男の声である。まるで迫真の演技をしているようだ。

 

「あなたは誰ですか? どうしたいですか?」

金田住職は、声の主に向かって呼びかける。

すると男は語り始めた。娘が海岸近くの学校に通っていたという。大震災の後、津波が心配で妻に迎えに行かせたのだが、渋滞で車が動かないと連絡があった後、携帯がつながらなくなってしまった。

それならおれが行くしかないと思った男は、海岸通は危険なことを承知しつつ、それしか方法はないと思って車を走らせた。しかし、その途中で真っ黒な津波に呑み込まれてしまう。やがて男は海水に引き込まれ、自分が真っ暗な海底に漂っているのを知ったという。

「あんたは死んだんだよ」金田住職は言った

「なに! おれが死んだだと?」

しばらく沈黙が続いたあと、男は金田住職に確認するように言った。

「海岸で津波に巻き込まれたのは分かるが、本当に、おれは死んだのか?」

「そう、死んだのです」

「ああぁ、死んだんだ! わぁ~」男は叫び声をあげた。

「あなただけじゃない。この津波で2万人近い人が死んだんですよ」

「なに、2万人も死んだのか」

 男は衝撃を受けているようだった。そして何かに気づいたように金田住職に問う。

「そう言うお前は、いったい誰なんだ?」

金田住職は説明したが、「なに! お前のようなやつは知らない」と受け入れようとしない。そこでこれまでの経緯を説明した。あなたは今、若い女性の中にいるが、死んだのだから死んだ人が行く場所へ行きなさいと諭すが、「そんなはずはない、嘘だ!」と信じない。

「大切な人が2万人もいなくなったんですよ。わかりますか」

すると男は「わああ~」と泣き出した。

「あなたは今どこにいますか?」と尋ねると、「真っ暗な海の中にいる」という。

「光が見えますか?」

「見えない」

「上のほうを見てください」

「上にはいっぱい何かが浮かんでいる」と言った。津波で流された死体や瓦礫だろうか。海の底から男の霊がそれを見つめているのだ。

「どこかに光が必ず見えるはずです。光を探してください」と金田住職は優しく言った。

しかし男は、他人に指図されるのが許せないらしく「お前はいったい誰なんだ! 何の権限でおれに命令するんだ」と反発した。

「あなたが今いるところは若い女性の中です。この女性にもお父さんやお母さんがいるんです。あなたも自分の娘のことが心配だったはずです。だからここにいるんでしょう? あなたも父親ならこの女性の両親が心配しているのはわかりますね。あなたがここから出て行かないと、この人は死んでしまうのですよ。それでもいいのですか?」

金田住職がそう言うと、男は黙ってしまった。

長い沈黙の後で、男はようやく口を開いた。「わかった」