俳優としての方向性を見失った時、
福田雄一さんの一言に救われた

「現場では平静を装っていても、内心では悶々としていました。俳優としてどうあるべきか、これからどういう作品に取り組んでいったらいいのか。そこまで忙しいわけでもなかったので、考える時間も多かった。でも、人って、考えすぎると停滞するんです。芝居の現場にいれば、やることがあって課題もあるから、その都度その都度手応えが感じられるけれど、動くことをやめると、途端に先が見えなくなる」

そんなとき、福田さんからの一言に救われた。

「『そこまで笑いに真剣に取り組もうとしている若手はいないんだから、もっと笑いを極めれば?』と言ってくださったんです。その言葉にハッとして、周りの邪魔をしないように守りに入るんじゃなく、もっと攻められるところはちゃんと攻めて、コメディで自分を印象付けたいと思った。先輩方や演出家、監督からのアドバイスに頼るだけでなく、自発的に、『こういう風にやってみよう』と考え始めて、ちょっとずつですが、全ての現場で楽しみながら役に取り組めるようになった。

あとはもちろん、仕事に対する姿勢の変化には、結婚の影響もあったと思います。家族を持ってしまったら、いつまでも、燻って、悶々とした自分のままではいられないですから。結婚によって、確実に、大人としての責任感は生まれたんじゃないかな」

撮影/山本倫子

結婚した翌年、堤真一さんが主演したドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』で、福田さん監修のもと、映像でコメディをやる機会に恵まれた。そこで強烈なインパクトを残し、視聴者からも評価されたことで、笑いに対して失敗を恐れず、自由にトライすることができるようになった。その勢いが、主演ドラマ『今日から俺は!!』につながっていき、この夏に上演された舞台『恋のヴェネチア狂騒曲』では、“大好きな舞台”で“大恩ある福田さん”と一緒に“子供の頃から大好きだった笑い”にどっぷりと浸かることができた。

古典劇であるこの芝居で、賀来さんは、キザなのかバカなのか、恋にうつつを抜かす青年シルヴィオを好演した。自己紹介の仕方や、愛の告白などがいちいち大袈裟なのに妙にリアルで、その一挙手一投足に笑いが巻き起こった。人間が、思わず笑ってしまう瞬間というのは、18世紀であっても21世紀であっても、イタリアであっても日本であっても、そう変わるものではないのだ。