ビジネスに応用可能な「編集思考」の特性とその落とし穴

佐々木紀彦氏の著書で考える
佐藤 優 プロフィール

「みなに好かれる」は不要

<人脈とセットになるのが、パワーです。パワーや権力という言葉を聞くと、古臭く思われるかもしれません。しかし、今後いかにフラットな組織や世の中になっていっても、権力は厳然と存在します。自分のパワーによって動員できるヒト、モノ、カネがなければ、いかにあなたのアイデアが優れていても、日の目を見ることはありません。

パワーの源泉は、権力と権威です。

権力は地位とつながることが多く、強制力を伴います。たとえば社長は人事権を持っているため、社員を異動させたり、給料を決めたりすることができます。
 

権威は、自発的に自らに従わせる力です。必ずしも地位は関係ありません。たとえ平社員でも権威がある人はいます。

今は、権力や権威を求めるのはカッコ悪いという風潮もありますが、それはナイーブすぎます。インパクトのあることをしたいと思ったら、旺盛に権力や権威を求めなければなりません。権力がないと人間は衰亡します。権力とは生命力。権力こそが、人に若さと緊張感をもたらすのです>

編集思考をする人自身が権力を持つ場合もあるが、大抵の場合は、権力者に擦り寄るということになるはずだ。こういう「下品力」が編集思考においては重要なのである。上品で成果が出ないよりも、下品でも利潤を獲得できる方が資本主義の文法に適っている。編集思考とは、新自由主義的な競争で生き残るために必要なノウハウなのである。

編集思考を身につけた人は、人間関係も他の人とは異なってくる。

<編集思考に迎合や忖度は不要です。身近な人のアドバイスさえ咀嚼できない人は、どの分野でも一流になれないからです。

編集思考とは、優しい先生のように、みなを底上げしようとするものではありません。それ自体は尊いことですが、役割が異なります。編集とは、才能ある原石を磨き上げていくための真剣勝負であり、ある種、毒気を含んだものです。いい編集者ほど、ときには冷酷なスナイパーのように人を切り裂いていきます>

どうも編集思考とは、投資銀行やコンサル業との親和性が高いようだ。佐々木氏はこんなことも述べている。

<編集思考を要する仕事の典型が、投資家です。その対象は、企業から、不動産から、アートから、人までさまざまです。ベンチャーキャピタリストは、将来化ける起業家を見抜くプロであり、作家などクリエーターの目利きをする編集者と近しいところがあります。

いい投資家の特徴は、損切りがうまいことです。このプロジェクトや企業や人に将来性がないと判断したら、そこでスパッとあきらめる。惚れ抜いた人にはとことん情熱を注入し、ある程度長い目で見ていきながらも、限界を感じたら深入りしない。自分の時間やリソースに限界がある以上、関われる人の数にも上限があります。(中略)

たとえ人間関係にヒビが入ったとしても、いいアウトプットにつながればそれでよしですし、真剣にぶつかりあって決裂するのであれば、本望だと思っているからです。

編集思考の大前提として、みなに好かれることは不要です。嫌われてもいい。冷淡でもいい。人付き合いにも、あえてポートフォリオを組むのです>

これから、投資銀行のディーラーやコンサルのような編集者に囲まれて仕事をすることを作家は覚悟しなくてはならなくなるようだ。

『週刊現代』2019年10月26日号より