2019.11.18
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岸政彦「自分はまだ『小説』というものを『書いてない』」

『図書室』刊行記念インタビュー(前編)
小野 美由紀 プロフィール

希望は最後には全部失われる

岸:僕の世界観というのは「世界中に『私』という存在は一人。そのたったひとりの個人が、世界のなかでバラバラにいる」。全部個人なの。さらに、個人といっても確固たる内面があるわけじゃなくて、がらんどうなんです。漂って流されて、って感覚だけがある。プランクトンみたいに。それを社会学でも描きたいと思っていた。

──「ビニール傘」をはじめとする先生の小説にはその世界観が現れていますね。

岸:僕の小説って、基本的に「さみしい、さみしい」って言ってるだけなんですよね(笑)。

──繋がっていない人の話、という感じがします。

岸:そうそう、だいたいみんな、別れちゃうし離れちゃうし。唯一、一緒にいてくれるのが犬か猫っていう。基本的に暗いんですよ、僕。「給水塔」という、『図書室』に収録された自伝的エッセーでも書きましたが、小松左京の「少女を憎む」っていう作品、あれがめっちゃ好きなんですけど、あの作品で、一瞬だけ途中で希望が出て来るでしょう。あれがいいんですよ。最後は陰惨な終わり方をするのですが。

でも希望って、基本的に最後には全部失われるものですよね。

──え!そうですか!?

岸:希望とか、肯定を、やっぱりそのまんま書いちゃうとね、嘘くさいというか、バカみたいな話になるよね(笑)。リアルな世界としては、希望も何もないわけやから。けど、ふとした瞬間にだけちらっと垣間見える。そういうものを書きたいと思いますね。

「何も起こっていないし、何もこれから起きないんだけど、確かにあの瞬間に何かが起こったはずだ」ってことを、後から振り返って思い出す、という。

 

──次回作の構想はありますか?

岸:今は、普通の小説、っていうのを書いてみようかなと思ってます。ストーリーもあって、今までは登場人物が最大2名なんだけど、次の作品では、いろんな人の人生がちょっと出て来て、消えてゆくみたいな。普通の小説を書いてみたいなと。

小説に関しては、いまは個人的な体験しか元になってなくて。記憶の中に転がっているかけらみたいなものを拾って書いてるだけで、個人的なものを寄せ集めて、あの時のああいう感じ、を書こうという感じでしか作ってない。「感じ」を書いているというか。

逆に、そこが課題なんちゃうかなって思ってます。

自分の書いたものは、基本的にめっちゃ気に入ってるんですけど。最初、小説を書くのが恥ずかしかった。登場人物に名前つけるのもダメで。

──えー!

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