2019.11.18
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岸政彦「自分はまだ『小説』というものを『書いてない』」

『図書室』刊行記念インタビュー(前編)
小野 美由紀 プロフィール

──自分とは異なる性別の人物の内面を書くのは勇気がいるものですか?

岸:ツッコミが入りがちな部分ではあるかなと思いますね。男性が女性の一人称で書くという形式は、批判しようと思えばいくらでもできるし。そもそも、一人の人間がちゃんと描けたかなという不安はありました。男でも女でもないところで読んでもらえたら嬉しいですけど。

僕が書く小説は、顔が見えない、という感想をよくもらうんです。肉体を持たないというか。外見の描写も全然しないんですね。

図書室を担当編集者に見てもらった時も、最初「男の子の外見を描写した方がいいんじゃないか」と言われて、あ、してないんだ、そういえば、みたいな。それで「あえてしないようにしよう」と。例えばメガネかけてて、髪型はこういうので、みたいな、イメージを喚起しながら書く人もいるけど、一切書かない。自分自身が人を顔で認識しないところがあって。人の声みたいなものを聞いて、その人を認識するところがあって、そういうところが出てきているのかな。自分のいろんな部分が出ますね。小説って。面白いですね。

──日常の中での嗜好というか傾向というか、好きだ、と思うものがどうしても出ますよね。

岸:猫は絶対出ますね。

最後に猫を拾うんですよね。ものすごく迷ったんだけど、最初に猫を拾いたいという話を最初に書いてて。いつもプロットとか一切書かないんです。最初にパッとシーンが浮かべば、あとは自動的に書いてます。書き直さないし、一切。最初に猫を拾いたいと書いて、書いていくうちに、最後にどうしてもその人に猫を拾わせてあげたいなと思って。予定調和だ、展開が「そのまんま」すぎる、と言われたりもしたんですけどね。

猫を拾うってね、ものすごく事務的な作業なんですよ。医者に連れてくとか、キャリーに入れて、とか寝床を作ってとか。その猫を拾う時に当たって生じる事務的な作業を、リアルに書こうと思いました。猫を拾うってこういうものやねん、というのを……。

そういうのを書くくせに、主人公がどういう顔かというのは書かない。声とかリズムとか、それが合うか、合わへんかというので、人を判断してるんかなと思います。

 

──『図書室』は中盤の会話のシーンがとても印象的です。

岸:会話も、わざと、どっちがどっちかわからへんようにして、書いててどっちのセリフかわからなくなって、わからないまま混ざり合う感じにして。で、それはね、僕、いとこがいたんですよ。同じくらいに生まれて、子供の頃はその子とずっと一緒にいて。毎日その子と会話して、その時の感じを、再現したって感じかなあ。会話に関しては、もっともっとやりたいことがあるんですけど。

──作品の中で、全体的に男の子を暴力的な存在として書いているのが印象的でした。

岸:あー、自分も含めて、男性性については考えることがあるんですよね。あんまり男ってものにいいことないなと(笑)しょーもないな、というのがベースにある気がします。

僕、基本的に人が苦手なんですよ。男性・女性にかかわらず。で、この小説の主人公も、働きながら一人で暮らしている。そういう生活になるまでの、その過程を考えたら、自然とそうなったという感じ。男性に関しては、どこかで絶望してるんじゃないかと。それで別に不幸でもないし、幸せに暮らしている。

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