アイドルでタイムスリップする観客たち

『写真力』の展示には、クレジットがつけられていない。手元に図録は配布されるので名前の確認はできるが、「時代を作った人々」の一枚の写真で、自分がその時代に帰ることができる。そして知らない人にとっては、初めて見る「すごく魅力的な人たち」の姿がある。その時代に生まれていない人ももちろん多くいるし、昔の写真ゆえに一瞬わからないこともある。会場には「あれっ、これ誰?」と言いながら図録で名前を確認する姿も見られる。

この日も、見物客の中から、様々な声が聞こえてきた。

「わ、あの子! 吉高由里子かと思ったけど、宮崎美子だって!」
「これAKBだね。一瞬わからなかった!かわいい~」
「パパ、この人だれ?」「小林旭って言ってね……」
「うわ、これ、満島ひかりちゃんだ、綺麗……」

「STAR」の部屋には、吉永小百合や広瀬すず、長嶋茂雄に王貞治、羽生結弦や高橋大輔、「時代を築いてきた人たち」の最も輝く瞬間が切り取られている。「あ、このときのこの人、素敵だったな」「ああ、このとき学校でうまくいってなかったんだよなあ」とタイムスリップできる空間だ。

その中で、「うわ、全然変わってないよねー。これ、いつの写真かな?」と言われていたのが松田聖子さんだ。

ずっとアイドルで居続ける松田聖子

『写真力』でもみられる松田聖子さんの笑顔 写真集『赤いスイートピー』カバー写真

芝生の中、いちごの水着を着て、笑顔で篠山さんを振り返る笑顔が眩しい。先の篠山さんの言葉にもあるように「聖子さんは松田聖子であり続けている」ことを実感する。

後藤繁雄さんの著書『超写真論 篠山紀信 写真力の秘密』で、篠山さんはこの写真についてこう語っている。

「この写真は、誰が見ても松田聖子だとわかる写真です。でもこれはデビュー当時の松田聖子じゃないんです。写真集『赤いスイートピー』は、ハワイで撮りましたが、デビュー25年後のものなんです。僕は彼女に、『松田聖子ごっこ』をやって写真撮ろうよと提案しました。ほら、赤いスイートピーとか、デビュー当時の松田聖子みたいなイメージで撮ろうよって言ったら、いいですねって言ってくれた。

赤いスイートピーなのに赤いいちごの服しかないから、その赤いいちごの服を着て、もう25年経ってるのに、昔みたいに跳ねたりスキップしたりして明るい松田聖子を演じてくれるんです」