5月 8日 WHOが天然痘根絶を宣言(1980年)

科学 今日はこんな日

地球のみなさん、こんにちは。毎度おなじみ、ブルーバックスのシンボルキャラクターです。今日も "サイエンス365days" のコーナーをお届けします。

"サイエンス365days" は、あの科学者が生まれた、あの現象が発見された、など科学に関する歴史的な出来事を紹介するコーナーです。

大規模な天然痘根絶計画を1967年より進めてきたWHO(世界保健機構)は、1980年の今日、強い感染力と高い致死率で長い間人々を苦しめてきた天然痘の根絶を宣言しました。

天然痘は、天然痘ウイルス(Poxvirus variolae)によって引き起こされる感染症で、感染力が非常に強い疾患です。重度の全身症状と特徴的な膿疱が生じ、治癒後も顔面などに瘢痕を残すことから、日本では古くから「美目定めの病」と言われ、忌み嫌われていたそうです。

天然痘ウイルスは、大痘瘡(古典的天然痘)と呼ばれ致死率の高い強毒株(variola major)と、小痘瘡とよばれ致死率の低い弱毒株(variola minor)に分けられますが、両者の増殖温度以外のウイルス学的性状は区別できないとされています。

【写真】天然痘ウイルス
  天然痘ウイルス Photo by Getty Images

感染経路は、飛沫感染(くしゃみなどのしぶきに含まれるウイルスを吸い込むなど)や、接触感染(患者の発疹やかさぶたなどの排出物に接触するなど)などによります。

天然痘の症状

  • 潜伏期間:12日間(7~16日)程度
  • 前駆期の症状:急激な発熱(39℃前後)、頭痛、四肢痛、腰痛など
  • 発疹期の症状:一時解熱したのち、全身に発疹
  • 発疹の変化:紅斑→丘疹→水疱(水ぶくれ)→膿疱(水ぶくれに膿がたまる)→結痂(かさぶた)→落屑と規則正しく移行する。発疹はすべて同一で、水疱にくぼみがある
【写真】発疹の様子

天然痘の発熱相(上のグラフ。参考:国立感染症研究所:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/445-smallpox-intro.html)と体幹の発疹(Photo by Getty Images)

天然痘は19世紀のジェンナーによる種痘法の開発以来、ワクチンが研究され、20世紀に中頃には先進国を中心として、多くの国・地域で根絶が達成されました。

日本では、1848年に牛痘由来の痘苗がもたらされて以来、国を挙げての根絶に力を入れてきました。1946年には1万8000人に近い数の流行がみられましたが、緊急接種などで対処し、 1956年以降には国内での発生はみられていません。1976年には定期接種としての種痘が終了しています。

関連の日:
5月17日 医学者エドワード・ジェンナー誕生(1749年)
7月19日 日本初の予防接種(1849年)

世界保健機構(WHO)は、優れたワクチンがある天然痘は全世界で根絶が可能であるとして、1958年の総会で「世界天然痘根絶決議」を可決しました。

しかし、医療環境や行政機構の整備が遅れていた南米、アジア南部、インド、アフリカなどでは、その後もたびたび流行が起きました。そこでWHOは、そうした地域における対策方針として、すべての人々に予防接種を行う「皆種痘」から、「患者を見つけ出し、その患者の周囲の人々を隔離して、その人々に種痘を行う」という、サーベイランスと封じ込め(surveillance and containment)に変更しました。

新たな「サーベイランス・封じ込め作戦」は、驚くほどの効果をあげ、10年ほどの間にほとんど世界のすべての地域から、天然痘を撲滅するに至ったのです。1977年10月、東アフリカ地域・ソマリア人患者を最後に(事故等を除く)、ついに全世界から天然痘患者の発生がなくなりました。

【写真】最後の天然痘患者・マーラン氏
  最後の天然痘患者アリ・マオ・マーラン氏(1954-2013)。治癒後、自身の経験からワクチン接種の有効性を人々に説く活動を行った Photo by Getty Images

ジェンナーによる初の種痘接種からおよそ180年あまり後の同月であるこの日、天然痘は根絶されたのです。

私たちはいまもウイルスとの戦いを強いられています。この天然痘根絶に至る人々の熱意と努力は、私たちにとってもなにかヒントとなりそうです。

関連の日:5月14日 種痘記念日

なお、天然痘ウイルスは、生物テロに使用される可能性が高い病原体として位置づけられています。たった1例の発生でも、非常に大きな問題となり得るため、日本でも、症例の確実な探知と迅速な対応を目的として、2003年10月の感染症法改正より届出の対象となっています。

【写真】
  天然痘撲滅30周年を記念する像 Photo by Getty Images

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