神戸・教員いじめ問題「大人によるいじめ」の過酷な法的リスクを問う

「いじめ」と「いじり」は違う
菊地 智史 プロフィール

民事上の責任も

次に、いじめの加害者は、被害者から民事上の責任を問われる可能性が高い。加害者が刑事的な処分を受けることによっては回復されない被害者個人の損害、今回の事件で言えばいじめ行為によって通院を強いられたことや休業せざるを得なかったこと、精神的な被害を受けたことといった損害につき、金銭によって賠償せよと迫られるのである。

 

一応、今回の事件では加害者が公務員であるから、地方公務員法により損害賠償責任を負わないのではないかという問題はある。とはいえ、公務員も最終的に責任を負うという内容の判決も散見されるし、読者の多くは民間企業で働いていると思われるため、ひとまず加害者は民事上の責任を負うという前提で話を進めよう。

突発的な暴行による小さなけがの場合、最終的に支払われる金額はさほど高額にはならないことが多い。例えば、道行く人同士でたまたま喧嘩になってしまい、一方が他方を殴ったところ殴られた人が倒れ、その際に手の骨にひびが入ったという事件を考えてみよう。この場合、2週間の通院と3日の休業程度は必要になり、精神的な損害への補償と併せて数十万円程度の慰謝料を支払うことで解決が図られるだろう。

意図的かつ執拗な行為

では、本件の場合はどうだろう。例に使ったような、突発的かつ衝動的な暴力と比べると、本件のいじめは相当長期間に及んでいただろうし、先輩教員という仕事上の有利な立場を利用している点、意図的かつ執拗な行為という点で悪質性が高い。また、被害者は精神的なショックから長期間の休業を余儀なくされ、仕事に復帰できたとしても定期的な通院が必要になるだろう。このように具体的に考えてみると、本件は悪質な事案であり、被害者が受けた損害は大きなものだといえる。

慰謝料について書かれた文献を見ると、単純な傷害事件でも、100万円や200万円といった金額の慰謝料が支払われた例は数多ある。筆者の経験に照らしても、傷害事件の場合に100万円や200万円で最終的な解決に至ることはあるし、これ以上の金額での解決もあり得る。

このような知見に照らすと、今回の事件で被害者が加害者に対し民事的な責任を取らせることを望んだ場合、最終的な解決の段階で、例えば200万円を上回る水準の金銭の支払いがなされる可能性は十分にある。

200万円という金額は、平均的な若いサラリーパーソンの月給が30万円だとすると、月給の約7倍弱になる。半年以上働き続けるということは、簡単なことではない。上司の叱責に耐え、顧客の要望に振り回され、汗水流して半年以上かけて稼いだ給料が、いじめという生産性のない行為によって消えてしまうのだ。

どうだろうか。一生懸命歯を食いしばって半年間働いた成果を無にしてしまうリスクをはらむいじめは、実行する価値がある行為だろうか。