天皇が子ども時代に親しんだ『カミサマノオハナシ』のスゴイ中身

美智子さまが選んだ
高木 香織 プロフィール

考えあぐねた藤田さんは、ふと録音テープがあるのを思い出した。その2年ほど前に藤田さんが病気を患ったとき、自分が不在でも幼稚園の子どもたちに『古事記』の物語を聞かせようと、内容をわかりやすく、やさしくしてお話ししたのを録音したテープである。

その録音テープに、藤田さんは娘の万里子さんが描いた絵巻物を添えて、高木さんに送ることにした。万里子さんは、『古事記』に出てくる神々のエピソードを絵にしており、赤橋幼稚園では万里子さんの絵を見せながら、園児たちに読み聞かせをしていたのである。すると折り返し、高木さんから藤田さんに手紙が届いた。

「美智子さまと浩宮さまが、熱心に耳を傾けていらっしゃいます」

藤田さんは、終戦前に出版された『カミサマノオハナシ』そのものを、浩宮さまにお贈り申し上げたいという思いが強くなった。そして、あちこちの幼稚園の卒業生に問い合わせ、ようやく『カミサマノオハナシ』一冊を手に入れた。激しい戦火をくぐり抜けたため、だいぶ傷んだ本であった。

 

「これをお贈りしていいものか」

藤田さんは逡巡したが、子どもたちに励まされ、思いきって浩宮さまのもとにお届けした。ちょうど年末のことで、これが浩宮さまへのクリスマスプレゼントとなったのである。

よみがえった『カミサマノオハナシ』

皇太子妃であった美智子さまは、ご自身が子育てをされる中で、子どもたちに日本の神話を伝える適切な書物がないか、探していた。そこで皇太子さまが、自らが幼い頃に親しんだ『カミサマノオハナシ』をお薦めになったという、いきさつがあったのだ。

実際、美智子さまは1998年にインドのニューデリーで開かれた、国際児童図書評議会(IBBY)の大会で基調講演され、次のようなお話しをされている。

「一国の神話や伝説は、正確な史実ではないかもしれませんが、不思議とその民族を象徴します。これに民話の世界を加えると、それぞれの国や地域の人々が、どのような自然観や生死観を持っていたか、何を尊び、何を恐れたか、どのような想像力を持っていたか等が、うっすらとですが感じられます。

父がくれた神話伝説の本は、私に、個々の家族以外にも、民族の共通の祖先があることを教えたという意味で、私に一つの根っこのようなものを与えてくれました。」

『カミサマノオハナシ』が出版された昭和から平成、そして令和へと御代が代わったが、皇室で親しまれた日本の神話のテキストは、80年経った今でも読むことは可能だ。今年5月、すべてカタカナ書きだった『カミサマノオハナシ』をひらがなに改め、『かみさまのおはなし』(講談社)として復刻版が刊行されたのである。

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