「霜降り・脂至上主義」の和牛が「赤身肉」へのシフトに苦戦するワケ

スーパーに「売れない」と言われ…
松岡 久蔵 プロフィール

業界は変化を迫られている

「実は、世界貿易機関(WTO)の自由貿易のルール上、和牛の遺伝資源を国外に出さないというのは、グレーな議論なのです。

WTOは自由貿易を基本としており、和牛の生体や受精卵、精液の輸出を禁止することは、国際ルール上不可能。2006年に開かれた検討会でも本質的にこの部分がネックとなり、業界団体による輸出自粛を基本対策とせざるを得なかったのです。

少しネガティブな言い方をすると、日本の和牛の遺伝資源流出が今のところ食い止められているのは、輸出に必要な相手国との検疫条件についての交渉がキッチリ行われておらず、中途半端な状態になっているおかげなのです。2000年の口蹄疫の発生により、本格的な交渉は宙ぶらりんのままですが、すでに20年近くが経過しており、米国や豪州、中国などからいつでも交渉を持ちかけられてもおかしくありません。

交渉が本格的に始まってしまえば、あくまでも科学的根拠に基づいて議論が進むので、政治的交渉の余地はありません。引き延ばすことはできますが、それにも限界がある。交渉がまとまった後は、和牛の生体を売ってくれと外国から言われたら、100頭だって1000頭だって売らざるを得ない。

私たちにできるのは、畜産業界の高齢化が進む中でできるだけ遺伝資源を守りつつ、輸出拡大や幅広いニーズに対応できる品種改良を進めることだけです」

どの産業でも、技術を完全に囲い込むことはできない。いずれ、輸出の際の検疫条件での政府間交渉が完了すれば、和牛もフォアグラやワインのように、海外勢と品質で勝負しなければならない時代が来ることは避けられない。

「和牛」という食文化が生まれて年月が経ち、農家や市場をとりまく状況も、グローバル化の波に飲み込まれて激変した。日本の畜産が大きなターニングポイントにさしかかっていることは間違いない。