「霜降り・脂至上主義」の和牛が「赤身肉」へのシフトに苦戦するワケ

スーパーに「売れない」と言われ…
松岡 久蔵 プロフィール

もうひとつの深刻な問題

その一方で、既存のブランド和牛の「流出」も年々深刻になっている。昨年6月には、輸出が禁止されている和牛の受精卵・精液「流出未遂事件」が発覚した。大阪の焼き肉店経営者と運搬役の男が2人で共謀して、大阪発中国・上海行きフェリーに、輸出に必要な検査などを受けずに和牛の受精卵と精液を注入したストロー計365本を手荷物として持ち込み、不正に輸出しようとしたのだ。

手荷物の中身は中国の税関で発見され、密輸が発覚して未遂に終わったが、「日本の『和牛』が国外に盗み出されそうになった」とナショナリスティックに報じられ、世間の話題をさらった。

大阪地裁は今年6月、2人に家畜伝染病予防法違反と関税法違反罪で執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。公判の中で、中国人ブローカーの男の依頼により平成24年ごろから少なくとも8~10回程度、冷凍保存された受精卵や精液をフェリーに手荷物として持ち込み、不正輸出をしたことが明らかになっている。

焼き肉店経営者は運搬1回あたり30万円を受け取り、そのうち3万円を運搬役の小倉被告に渡していたという。流出元は、徳島県吉野川市の牧場経営主の男性。70歳代と高齢で経営状況が悪化していたことが、焼き肉店経営者に受精卵と精子を売った理由だった。

 

事件を受けて、政府や自民党、畜産業界は再発防止に向け動き出した。罰金の最高額を現在の100万円から引き上げるという法改正のほか、農水省は有識者による検討会も開いた。

検討会では、管理体制のどこに穴があったかを見直す議論が中心となった。今回の事件で徳島県の農家が在庫していた受精卵と精液が売られたことを受けて、使用見込みのないものを処分するなどの提案がなされた。

また、和牛の受精卵や精液は、県などの自治体や民間の家畜人工授精所という施設で管理されていて、獣医師か家畜人工授精師しか授精を行えないよう規制されているが、農水省が家畜人工授精所を調査したところ、実際に授精業務をしているのは全1634ヵ所のうちの約7割で、残り3割が休業か廃業していることが判明。

同省は都道府県に通知を出し、稼働状況を毎年報告することや、稼働していない授精所には開設許可を取り消すことを自治体に求めた。