〔PHOTO〕gettyimages

習近平政権との「対決」を鮮明にした、台湾・蔡英文総統スピーチ全訳

「対戦相手は海岸の向こう側にいる」

まさかのV字回復

人間万事塞翁が馬と言うが、政治家もまた然りである。いまから一年近く前の昨年11月24日、台湾の蔡英文総統は統一地方選挙で、自ら率いる民進党(民主進歩党)を歴史的な大敗に追いやった。

台湾の計22の市長・知事のうち、それまで民進党は13の地域で首長を占めていて、過半数死守を目標に掲げていた。それなのに、一気に6地域にまで減らしたのだ。

辛うじて死守したのは、桃園市、台南市、基隆市、嘉義県、新竹市、屏東県のみというありさまで、6勝16敗である。特に、「六都」と呼ばれる台北市、新北市、桃園市、台中市、高雄市、台南市の中で、2都市しか勝てなかった。

「敗戦投手蔡英文」「民主退歩党」「藍緑版図大洗牌」(青=国民党と、緑=民進党の版図がガラガラポン)……。

投票が締め切られた午後4時(台湾時間)を過ぎると、インターネットで台湾メディアのこのような遠慮ない見出しが出始め、蔡英文総統は夜9時5分に、民進党の選対本部に現れた。トレードマークの白いシャツに紺のジャケットを羽織っていたが、沈鬱な表情を浮かべており、絞り出すような声で、1分28秒にわたって声明を読み上げた。

photo by Gettyimages

「国の同胞各位、皆さんこんばんは。執政党の主席という身で、まずは本日の地方選挙の結果に対して、私は完全に責任を負っている。いまこの場で、民主進歩党の主席を辞任する。われわれの努力が足りなかった。それによって、一緒に戦ってきた支持者を失望させてしまったことについて、この場で真摯に謝罪する。

民進党は、民主の価値を信じている。本日、民主はわれわれに、一つの教えを与えてくれた。われわれは謙虚に、国民の新たな要求を受け入れていかねばならない……」

 

この時、2020年1月の台湾総統選挙で、蔡英文総統の再任はもはやないと、2300万台湾人は確信した。蔡英文総統の最側近であるナンバー2の頼清徳行政院長(首相)でさえ、この日に蔡総統を見限って、辞表を叩きつけたのだ(頼前院長はその後、民進党の総統候補を決める予備選に出馬したが、今年7月に蔡総統に敗れ去った)。

なぜこれほど蔡英文民進党が、統一地方選挙で大敗したかと言えば、それはひとえに台湾海峡の向こう側の習近平政権と反目し、それによって台湾経済が低迷したからだった。

蔡英文総統は、2016年5月に就任して以来、「一つの中国」(中国と台湾は一体であるという認識)を認めず、中国からの独立志向を保持してきた。そのため中国は、両岸(中台)貿易や中国人の台湾観光を制限するなどの制裁に出た。その結果、台湾経済は悪化し、蔡英文政権の支持率は2割台にまで落ち込んだのである。「民主でメシは食えない」ということが言われた。

ところが今年6月以降、風向きが180度変わった。香港で民主化デモが激化すると、蔡英文総統は「今日の香港を明日の台湾にしてはならない」とアピールし、支持率がV字回復していったのである。今度は「民主がないとメシも食えない」というわけだ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら