夫婦の認知症は「うつる」と言われる…その深すぎる理由

愛だけでは耐えられなくなる
週刊現代 プロフィール

だが、気を張れば張るほど、美幸さんは憔悴していく。介護疲れがたたって、体重は激減。ただでさえ痩せ型だった美幸さんは、38kgにまでなってしまった。

「なにより辛いのが、出口の見えないまま状況が悪化していくことです。認知症は他の病気と違って、治る見込みはない。今以上に事態が良くなることはないんです。

毎日、主人に怒鳴られていると、ふたりが築いてきた日々がすべて嘘だったんじゃないかという気持ちにすらなる。それが悲しいんですよ。主人を愛しているからこそ、いくら尽くしても手ごたえのない日々が虚しくなってしまいました」

 

それは、もはや愛ではなかったのかもしれない。あれだけ好きだった夫に、いつしか憎しみすら抱くようになっているのも自分なら、それを絶対に認められないのも、また自分だった。

Photo by iStock

知らず知らずのうちにコップに水が溜まっていくような状態は2年半にわたって続いた。そしてあるときついに、コップから水が溢れてしまった。もう限界だった。

「些細な口論から主人が激怒して、リビングにあるものを次々に壊していったんです。その中には、息子たちと一緒に撮った家族写真のフォトフレームがあった。もちろん、本人はボケているのでそれが何かなんてわかっていない。でも、私たち夫婦にとって家族写真は宝物だったんです。

その瞬間、怒りに任せて暴れまわる姿を見て、妙に冷静になる自分がいました。『あぁ、もう主人にとっては、私との思い出はおろか、あれほど大事にしてきた家族との時間もどうでもよくなってしまった。もう、ふたりで築き上げてきたものは失われてしまったんだ』と悟ったんです。

最終的には長男の言葉を受け入れて、主人には施設に入居してもらった。今はその判断が正しかったと思っています」

夫婦の間で認知症はうつってしまう。たとえ認知症になった夫でも、自分の認知症が妻にうつることなど望んではいないだろう。悲惨な介護生活の末に共倒れをしないために、逃げ道を作ることも大事なのだ。

施設に入れる決断はいつか

愛だけで乗り越えられるほど介護は甘くない。しかし、一度施設に入れてしまえば、二度と夫婦で一緒に暮らすことはできなくなってしまうから、その決断を下せない人もいるだろう。

「施設へ入所させるのがかならずしも最適な方法であるとは限りません。ですが、いまの介護保険制度ですと、心身に不自由のない家族が同居している場合、家事を支援するサービスを受けられない。それゆえ、特に男性介護者には家事が重くのしかかります。

ストレスから、相手にきつい言葉や態度であたってしまうこともあります。距離を置くためにもショートステイや施設入所も検討したほうがいいでしょう」(介護・医療ジャーナリストの長岡美代氏)