マスコミの「両論併記」が、世間に与える「意外な悪影響」

「バランスを取ろう…」の落とし穴
堀内 進之介 プロフィール

気候変動の問題を再び例にとれば、国内の経済成長を最も重視するという意味で、右派的なイデオロギーバイアスがあるメディア関係者は、地球温暖化の深刻さを指摘する声を不確実だと見なしたり、地球温暖化に対する国の政策のコストを問題にしたりする懐疑論者の主張を、新奇なもの、親和性の高いものとして取り上げる傾向にある。

そこでは、懐疑論者の主張は、警告者の声と競合するものとして「両論併記」されることになる。こうした傾向は、先の述べた二つの要因――「イデオロギーバイアス」と「メディアの論理」――が作用した結果だ。

「イデオロギーバイアス」と「メディアの論理」によって、本来なら「両論併記」にそぐわない批判や主張が取り上げられる背景には、先に述べたジャーナリズムにおける「バランス規範」の存在と、視聴者のアテンションを奪い合う目下の情報流通市場がある。

 

「バランス規範」によって無根拠な意見が拡散される

「バランス規範」は、そもそもはジャーナリストに、対立する双方の意見に同等の発言権を与えることで、視聴者に中立的な説明を提供するように求める規範である。ジャーナリストにしても、自らの客観性を示し、偏向報道との誹(そし)りを免れることができるので、この規範に従いやすい。

この規範は、通常はメディア報道の公正さを担保するために機能するが、しかし、ジャーナリストが相反する意見の妥当性を評価する時間や専門知識を欠いている時には、むしろ公正さを台無しにするように悪影響する

というのも、バランス規範は、意見の妥当性を評価する時間や専門知識を欠くジャーナリストに、妥当性チェックの代理として「両論併記」を採用する動機を与え、その結果、競合するはずのない無根拠な意見に正当性と、メディアに登場する機会を与えるからだ。

全世代の8割以上が情報過多だと感じている情報流通市場の中では、視聴者のアテンションをいかに集めるか、その成否がメディアの生き残りを左右する。それゆえ、人目を惹く新奇な意見や極端な意見、あるいは賛否両論それ自体がビジネス上の価値を帯びることになり、その結果、情報流通市場における競争が、ジャーナリストやメディアに競合するはずのない意見を取り上げる動機を与え、それらに耳目を集める機会を与えてしまう。