マスコミの「両論併記」が、世間に与える「意外な悪影響」

「バランスを取ろう…」の落とし穴
堀内 進之介 プロフィール

このような懐疑論者の批判は、合理的な根拠に基づくこともあるが、そうではないこともままある。気候変動に関して言えば、警告者の主要な論点、特に地球温暖化の原因が人為的なものであることには科学的なコンセンサスがあるが、懐疑論者の批判はそれを意図的に無視するものが大半だ。

にもかかわらず、そのような懐疑論者の根拠を欠いた批判が、あたかも警告者の指摘や科学的なコンセンサスと競合するものであるかのように、一般人に受け取られるとすれば、その原因の一つは、間違いなく「両論併記」を好むメディア報道の姿勢にある。実際、多くの研究が、「バランス」を重視するメディア報道の姿勢が気候変動の問題に、有害な影響を与えていることを指摘している。それはワクチン接種の問題についても同様だ。

 

「イデオロギーバイアス」と「メディアの論理」

こうした「両論併記」が有害な影響を与えているという指摘に対しては、メディア報道にはジャーナリズムにおける「バランス規範」とでも呼べる原則があり、偏向報道を避けようとする努力が意図せざる帰結をもたらしているに過ぎない、と反論する声があるかもしれない。

しかし、以下に述べるように、「両論併記」を好むメディア報道の姿勢はバランス規範の遵守だけでは説明しきれない、いくつもの問題を抱えており、そのために懐疑論者の根拠なき批判に不均衡な発言権を与え、憂慮されるべき事案から一般人の関心を遠ざけるという事態を招いている。どういうことか、先行研究を参照しつつ順に説明しよう。

〔PHOTO〕iStock

メディア論における一般的な理解に従えば、メディア報道の内容に影響を与えるものには、三つのレベルがある。ジャーナリスト個人、ジャーナリストが所属する組織、そして社会制度や文化といった外部環境がそれである。

そして、どのレベルでも次の二つ要因が、ニュース素材の選別において、大きな影響力を持っている。その一つが、特定の考え方に基づいて特定のトピックを扱うことを好む傾向、つまり「イデオロギーバイアス」であり、もう一つが、ニュースの新奇性や媒体との親和性などを重視する「メディアの論理」だ。