「人手が足りなくて」と、上演中は照明を担当したくるみざわしんさん(2019年9月28日、静岡県伊東市のひぐらし会館)

精神科の闇を描く演劇『精神病院つばき荘』がロングランを続ける理由

脚本を書いた精神科医が語る

日本社会から切り捨てられた人々がベッドを埋める精神科病院──その暗部を描いた演劇「精神病院つばき荘」が人気を集めている。昨年暮れの東京・新宿での初演以降、各地で上演が続いている。

登場人物は男性患者、院長、看護師の3人。劇が進むにつれて、彼らの心の軋みや日本社会の歪みが露わになっていく。つばき荘はなぜ、庭に一輪の花も咲かないのに「つばき」なのか。約2時間に及ぶ劇の終盤で、驚きの事実が明らかになる。

脚本を書いた劇作家で精神科医のくるみざわしんさんに話を聞いた。

約2時間に及ぶ演劇『精神病院つばき荘』で難役を演じる役者たちと、くるみざわさん。左から土屋良太さん、くるみざわしんさん、川口龍さん、近藤結宥花さん(2019年9月28日、静岡県伊東市のひぐらし会館)

男性患者が、実際に発した言葉から

「この病院は注射の上手な人から辞めてゆきますな」

入院生活40年に及ぶ男性患者・高木(川口龍)のそんなセリフから、劇は始まる。高木は、精神症状が遥か昔に治まっているのに、地域に住める場所がなく、退院できない典型的な「社会的入院患者」だ。

高木のような患者は、病院にとって何もせずとも金が入る優良収入源なので、退院支援はせず、「生かさず殺さず」の対応を続けている。

診察室で高木と向き合う院長・山上(土屋良太)は、返す言葉がない。高木は上着の左の袖をめくり上げ、下手な注射で生じた7か所の青あざを見せながら、良い看護師ほど辞めていく理由を追及し始める。

高木の冒頭のセリフは創作ではない。くるみざわさんが以前に働いた精神科病院で、男性患者が実際に発した言葉だ。その病院は、金儲けのために過剰な血液検査を毎月行うようなところで、看護師の技量は総じて低かった。

くるみざわさんは振り返る。「その言葉に最初、ピンときませんでした。でも心の何処かにずっと引っかかっていて、後年、精神科病院の歪みを象徴する言葉だと気付いたんです」

 

つばき荘では、避難計画などの原発事故対策を巡り、内部に深刻な亀裂が生じていく。理事長ら経営者は、地方財界でつながりのある電力業界との関係悪化を避けるため、「反原発」と疑われるような事故対策は打ち出したくない。しかし、患者の避難計画などを求める声が一部職員から上がり、対立が強まっていく。高木や山上もこれに巻き込まれていく。