市場半減の出版不況でも、紀伊國屋書店は「11期連続黒字」のワケ

カギは37店舗もの海外展開にあった
米津 香保里 プロフィール

日本流の接客用語をやめる

とはいえ、日本の書店人が海外で3つの視点を掛け合わせるようなことが可能なのだろうか? その疑問に川上氏はあっさり即答してくれた。

「現地の中堅スタッフと意見をすり合わせながらやっています」

紀伊國屋書店の海外店は、支配人と現場で汗を流す若手社員を日本から送り込み、現地で採用した異国の人たちとともに店舗を運営するのが常だそうだが、赴任組と現地採用組が話し合う文化が醸成されているというのだ。

日本人だけでは気づけない視点が、日本人スタッフと現地スタッフのすり合わせによって店づくりに活かされ、その情報が本社に集約され、全店に共有される。そういった文化とシステムの両方が、紀伊國屋書店の海外展開を支えているという。

そのスタンスは、接客面でも同様だ。例えばシドニー店では日本流の接客用語をやめ、お客様にフレンドリーに「Hi!」と呼びかけるなど、現地スタッフと話し合ってその店ごとにベターな方法を見つけている。

最後、藤則氏に「厳しい環境にある日本の店を閉じ、海外に軸足を移す可能性はあるのでしょうか」と問いかけてみた。

「私たちは“書店らしい書店”をあきらめない」

「それはありません。私たちは日本の展開も海外の展開も緩めるつもりはありません。書店は社会の基幹産業です。書店がくじけたら教育も文化もダメになります。ありがたいことに、当社は多くの方々から応援していただいています。そういった方々に、私たちは“書店らしい書店”として頑張ることで応えたい。
海外展開の影響は大きく、前向きな若い人たちが多く入社してくれるようになりました。また、海外赴任で身につけた書店経営のノウハウを日本に持ち帰り、閉塞的な日本の書店経営に風穴を開けようという気運も生まれています。
人材だけでなく、仕入れにしても、商業施設をはじめとした海外へプレゼンスやブランド力を発揮することができ、紀伊國屋書店は海外展開のおかげで多くのリソースを蓄えてこられました。これからは、そういったリソースが活きてくるフェーズです。海外店と国内店、店と外商、仕入れと商品開発。海外展開をフックにさまざまなシナジーが生まれ始めています。
当社は昨年連結決算にシフトしましたが、それは、サンフランシスコ進出から50年、紆余曲折はあったけれどもそろそろ胸を張れる。そして、まだまだやれる、と思ったからこその意志の表れです。日本をあきらめるつもりはまったくありません」

 

取材を終えて、『日本への警告』のトークイベントでジム・ロジャーズ氏が語った言葉が蘇ってきた。

「大切なのは情熱です。情熱をもって外に飛び出してください。自国から遠く離れた場所で感性と経験を磨いてください」

紀伊國屋書店は海外でスマートに勝ち続けているわけではなかった。時代の濁流に飲み込まれそうになりながら、リソースを総動員して日本に世界に販路を広げようとしている姿が見えてきた。

そうやって踏ん張り続けたからこそ、いま、骨太な成長が実現しようとしている。紀伊國屋書店が日本を代表する世界ブランドになる日は遠くない。筆者にはそう思えてならなかった。

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