【第一回:新人小説家は期待に押しつぶされ、大阪から日本最北端へと逃げ出した】
信じがたいことに、上越市から秋田市までを一日で走り抜けた。
朝に出発して、夜に着いた。
秋田駅前のホテルのフロントで、このあたりで食事ができるところはありますか、と聞いた。
こちらをお持ちください、と、駅前の飲食店がまとめられた地図をもらった。
東横イン、万歳。
私はその地図を手に、夜の秋田駅周辺を彷徨した。
なんというか、旅もこのあたりまで来るともう驚かないのだが、人がいなかった。
たしか夜の九時くらいだったと思う。
何曜日だったかは覚えていない。
しかし、秋田駅だぞ。
あの秋田だぞ。
きりたんぽ鍋、いぶりがっこ、稲庭うどんの秋田だぞ。
もっと街に人が繰り出していて然るべきではないのか?
店をもとめて歩くうち、目にした人といえば、うなだれたサラリーマンとみょうに美しい少女だけだ。
文化は、郷土は、旅情はいったい、いずこ?
私はふらふらと一軒の居酒屋に入った。その居酒屋は、地元でもう五十年もこの商売をやっている夫婦の誇りであって、気さくな店主の冗句と常連の笑い声がいつも絶えることのない名店、ではなかった。
まあ、ふつうのいい店だった。
東京でなら三百軒くらい見つかるだろう。
私はアサヒ・エクストラコールドを一杯、身体が冷えたのでふつうの生をもう一杯、日本酒を一合飲み、ただちにホテルに戻って、寝た。