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# 日本経済

消費税10%後、「企業の価格設定力」が日本経済を左右する

消費の悪化は緩やかでも安心はできない

企業の価格設定と金融政策の関係

消費税率引き上げから1週間余りが経過した。消費税率引き上げ後の経済動向を示す経済指標の発表は11月以降になるため、全体の状況はまだわからない。

ただ、駆け込み需要がそれほど大きくなかったことやポイント還元の普及等もあり、筆者の周辺をみる限りは、従来の消費税率引き上げ時よりも影響は軽微であるというのが率直な感想だ。

筆者は、今回の消費税率引き上げについては、「増税による価格の不連続な上昇 ⇒ 家計の実質可処分所得の不連続な減少 ⇒ 実質消費の不連続な減少」という従来型の影響よりも、「軽減税率やポイント還元等による企業の価格転嫁の抑制 ⇒ 価格競争の激化 ⇒ 利益率の低下による企業業績の悪化 ⇒ コスト削減圧力の高まりによる雇用の悪化 ⇒ 再デフレ」という連鎖の方を懸念している。

 

前者のケースであれば、一旦、消費が急減した後、時間をかけてそれが徐々に修正されていくパターンである。だが、万が一、後者となった場合には、短期的な消費の落ち込みは従来よりも小幅だが、消費税率引き上げの影響は時間をかけて「ボディブロー」のように効いてくる可能性が高いと考える。

ひょっとすると、消費税率引き上げの影響かどうかわからないような形で長い時間かけてマクロ経済全体に効いてくるかもしれない。そうすると、次の増税に対するハードルも低くなることが想定され、非常に「たちの悪い」影響になってしまう懸念もある。

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その意味で、今後の影響を考える際に注意すべきは、家計の消費行動というよりも、むしろ「企業の(販売価格の)価格設定力」ではないかと考える。

「企業の価格設定力」が弱ければ、販売価格引き上げによってコスト増をカバーできなくなるので、コスト削減圧力は雇用や設備投資の方にかかってくる。これは「再デフレの始まり」になってしまうかもしれない。

そして、再デフレの可能性が高まるとすれば、現在は小休止しているようにみえる日銀の金融政策が再び重要性を帯びてくることになる。したがって、今後の金融政策の動向を考える際にも企業の価格は重要な意味を持つ。

残念ながら、日本では、「企業経営者がいちいち金融政策なんか気にしているわけがない」と言って、企業の価格設定と金融政策の関係を否定する向きが多いが、米国では、企業の価格設定を金融政策の重要な波及経路のひとつとして考える論文がいくつか存在する。

シカゴ大学ブースビジネススクールのキンダ・ハシェム教授とジン・シンシア・ウー教授や、ノーベル経済学賞受賞に向けた若手経済学者の登竜門といわれる「ジョンベイツクラーク賞」の今年の受賞者であるカルフォルニア大学バークレー校教授のエミ・ナカムラ氏の一連の論文がその代表例である。