年間一億円以上使う顧客もいるというJTBの富裕層向けサービス

「インターネットでは取れない商品を仕入れてご提供するのが、私たちの仕事だと思っています」

 株式会社JTB首都圏、富裕層戦略推進室の佐藤未来子が云った。

「JTBのブランド、ロイヤルロードのブランドを駆使して、通常では叶えられない機会をご提供しております」

 銀座六丁目、並木通りの朝日ビル。一階にはサンモトヤマと、ロロ・ピアーナが入居する、文字通りの銀座の一等地である。かつて、銀座一、東京一の理容室、米倉が入居していたビルである。

 その二階に、JTBの富裕層向けツアー、ロイヤルロードのオフィスがある。設えからして、五つ星ホテルのラウンジのような、高級感を醸しだしている。

「このオフィスは、平成十五年九月十六日に開設いたしました」

 平成十五年は、SARS、鳥インフルエンザの年である。

「もともと、平成十三年の九・一一の時、旅行需要がかなり落ちたのです。その頃から、危機感はありましたね。HISさんなど新興代理店が台頭してきた、ということもありますけれど。いままでとは違うお客様の層、違う需要を掘り起こさなければならない、と」

完全オーダーメイドでプライベートジェットも

 九・一一以降、企業の海外出張が減ったことも大きかったという。たしかに、インターネットを母体としたコミュニケーション技術が発展する一方、テロへの警戒からくる入国審査の厳格化―アメリカでは下手をすると三時間、入国手続きにかかる事があるという―を考えると、海外出張のコストが、かなり高いものに映るのは当然のことだろう。

 ロイヤルロードの前身は三つあるという。

「まず、横浜の関内支店ですね。ここに熟年旅行センターが設置されていたのです。本社の指示で設置したのではなく、発案者がたまたま関内にいたという事なのですが。熟年向けのハイグレードな商品を開発、販売しようということで、センターが発足したのです」

 もう一つが、本社、丸の内のアクティブ・シニア向けのセクションだという。

「高額の商品を購入していただいている、昔からの顧客に営業してきた部署ですね」

 高額とは? と訊ねてみた。

「基本的には海外に、ビジネスクラス以上で行き、星付のホテルにお泊まりになる方ですね」

 そういう顧客にたいして、デパートの外商のように頻繁に訪問して営業するのだという。

「そして、もう一つが虎ノ門支店ですね。ここにライブツアーという人気商品がありました。海外のクラシック・コンサートやフェスティバルに行くツアーです。これはとても人気があって、今もコンスタントに売れています」

 平成十五年から五年間、ずっと右肩上がりで成長してきたという。

「昨年は、新型インフルエンザがありましたでしょう。それで、お医者様の動きが鈍くなってやや低迷いたしました」

 医師が、主要な客層だというのは、納得がいく。たしかに、国内で新型インフルエンザが蔓延するなかで、患者を放っておいて海外に行くわけにはいくまい。

 顧客の九割が五十代以上。旅先はヨーロッパが八割以上だという。

「近年、アジアにも高級リゾートがたくさん出来ています。お客様のなかには、お忙しい方も少なくないので、そういう方には近くにある、そういった場所をお勧めすることもあります」

 ビジネスクラスを前提とした、『夢の休日』というツアーでは、「スイス名峰と氷河特急九日間」八月七日出発、百八十二万円(一人部屋利用追加代金三十九万円)、「情熱の国・スペイン古都紀行九日間」五月一日出発、百七十七万円(一人部屋利用追加代金三十六万一千円)、「帝政ロシアの栄華を訪ねる モスクワ・サンクトペテルブルク七日間」七月十七日出発、百五十四万円(一人部屋利用追加代金二十九万六千円)といった数字が並んでいる。一人部屋利用追加代金だけで、そこそこの旅行が出来てしまいそうだ。

 客層の変化は、ほとんど無いという。

 医師、弁護士といった、専門職に従事する人が多いというのは頷ける話だ。

「以前は限られた方々が何回も行くというケースが多かったのですが、はじめてのお客様が増える傾向にあります」

 特にライブ鑑賞のツアーは、景気の良し悪しは関係なく、常に人気があるという。

『夢の休日』などのツアーのうえに位置づけられているのが、『ロイヤルロード』。これは、完全にオーダーメイドの商品なのだ。

 ビジネス、あるいはファーストの航空機のみならず、プライベートジェットの手配まで受け付ける。部屋の用意もクラス、タイプはもちろん、眺望までの指定が可能、空港でのチェックイン時にはJTBのスタッフが付き添い、滞在先では専属のガイドと専用車が用意されているという。加えて旅先のJTB海外支店の専用担当者が、サポートする。

 『夢の休日』シリーズの価格が、それなりのものだった事を考えると、かなりの額になることは間違いないようだ。

 取材前に、ある噂について訊いてみた。

-- ロイヤルロードで、一年に一億円を使う顧客が、百人ぐらい居るという話を聞きこんだのですが。

 佐藤は微笑んだ。

「それは、だいぶ楽しい数字になっていますね。残念ながら、そこまではいません」

 しかし、実際に、一億以上使う顧客は存在しているという。

 旅行で一年一億円というのは、どんな使い方をするのだろうか。毎日、ロマネ・コンティとペトリュスを呑むとか・・・それぐらいの事しか考えつかない自分がちょっと哀しい。

「例えばですね。ヨーロッパまでプライベートジェットで往復すると、約五千万円ぐらいかかるのです。あまり詳しくは、お話しできませんけれど。お客様が特定されてしまう恐れがあるので」

 ジェット機だけで、五千万円かかるというのなら、年に二回も旅行すれば一億円くらい、軽くかかるだろう。

 いささか抽象的だった「富裕層」という人々の輪郭が、多少鮮明になった心持ちだった。

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