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数とは何か? あの髙木貞治が最後に記した数学書とは!

1+1=2が正しいことは証明できるか

証明は“数の定義”からはじまる

「ランダウは、うちの娘は大学で理系を専攻し卒業したが、どうしてそうなるのか、よくわかっていないようであると言う。また、デデキントは彼の名著『連続性と無理数』以前に、たとえば2×3=6が成り立つことが正確に証明されたことがなかったことを例にあげて、数学教育の主眼は論理的訓練にあるはずなのに、こういった問題がいいかげんにされていることを痛烈に非難している。

xy=yxにしても、2×3=6にしても、それらはそのように成り立つものとして知っている人は多いが、どうしてそうなるのか、どうやってそのことを証明するのか、ということについてきちんと考えたことのある人は、現在の時代であっても、やはりほとんどいないのではないだろうか?」

 

数の概念』(著者・髙木貞治)の「序文」の冒頭で、著者は読者に向かってこのように問いかけている。髙木貞治博士がその生涯の最後に著した数学書としても知られる本書は、理系の学生や数学愛好家だけに向けられたものでなく、数の性質を通して論理的思考力を鍛えたいと考える、すべての人に向けて書かれたものである。

上述の2×3=6をみると、23も無理数である。無理数は小数点以下が循環しない無限小数であることから、その数を最後まで調べ尽くすことはできないものである。その二つを掛けた結果が、6だということは当たり前のことではないだろう。当たり前でないことはきちんと証明されなければならないのが数学の世界の掟のはずだ。

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だが、この基本的だと思えることを証明するためには、何を前提として証明したらよいのか、すなわち「数」というものをどのように定義づけているのかということを明確にすることから始める必要がある。

数の概念』は、数学を考えるうえで大原則としているはずの“数についての概念や公理”に立ち返ってみよう、数についての公理系を構築してみようという目的で書かれた書である。

数学のための基礎工事

このことに関連して髙木先生は、『数の概念』を著す十数年前の1934年頃、次のようなことを述べられている。

「建て物を上に上に増築していったとき、相当高いところまで増築した段階で我に返り、さてこの建て物はぐらついたり崩壊したりしやしないだろうかと心配になる。建て物のそもそもの土台となっている地下の基礎工事がどうだったろうか、増築するために不備があるというなら補強しなければならない……と気になり始めるものだ。このようなことが昨今数学の世界に起きて、数学基礎論がホット・トピックになっている」と。