2020年、カリフォルニアが「アメリカの未来」を左右する

デジタル・ゴールデンステイトへの変貌
池田 純一 プロフィール

トランプvsカリフォルニア

ところで、このAB5を法律にするための署名を行ったギャビン・ニューサムは、サンフランシスコ市長を経た後、前任のジェリー・ブラウン州知事の下で副知事を務め、昨年の中間選挙に出馬し、州知事に初当選した。

以前にも一度彼については紹介したことがあるが(参照:このご時世に「政府」はいつまで古いOSのままなのか?)、ベイエリアの中核都市であるサンフランシスコの市長を務めたことからもわかるように、ニューサムは生粋のデジタル・プログレッシブだ。いわゆるテック・リバタリアンとは異なり、テック企業が好き放題にすることを認める立場ではない。シリコンバレー発の様々な社会問題の解決方法の提案を歓迎するものの、新たなテクノロジーの導入で生じた問題や社会的歪みに対しては、政府による迅速な介入を通じて、イノベーションと社会生活とのバランスを保っていこうとするのが基本姿勢だ。

その点では、全面的にテック企業の味方というわけでもない。むしろ、2016年大統領選で明らかになったFacebookやGoogleの失態に対して、正当な法的縛りを与えようとしている。そうして、カリフォルニアをデジタル・ゴールデンステイトへと変貌させようとしている。

ギャビン・ニューサム〔PHOTO〕gettyimages

実際、2019年1月に州知事に就任後、州議会に向けた施政方針演説である“State of the State”の中で進歩的な政策をいくつも発表した。カリフォルニアは、今や、州知事も州議会も民主党が掌握した全米で最も青い州、すなわちブルー・カリフォルニア、いや、ディープブルー・カリフォルニアとも言うべき民主党優勢の州であり、そのため、ことごとく共和党のトランプ政権と対立している。

長らくカリフォルニアは、未来のアメリカを映す鏡と呼ばれてきた。シリコンバレーとハリウッドは、誰もが認めるアメリカのクリエイティブ&イノベイティブ産業の牽引役であり、カリフォルニアは、アメリカの未来を先取りする先行指標とみなされていた。だが、トランプ政権の誕生以後、そのようなアメリカとのつながりはぷっつりと切れてしまった。90年代のインターネット革命を機に民主党とともにアメリカ政府の側にあった「官軍」としてのシリコンバレーも、トランプ政権の誕生で一転し、「賊軍」の地位に落ちてしまった。

 

政治的に「トランプvsカリフォルニア」の構図が生じたのだ。2016年から2年間、大統領も連邦議会も共和党が掌握していたため、連邦政府とカリフォルニア州政府とはまさに水と油の関係となった。互いに全く異なる政治理念の下に社会運営を展開していこうとするのだから、衝突が生じないはずがない。

ディープブルー・カリフォルニアの根底にあるのは、「多様性と異質性を尊ぶ自由な社会」という理想像だ。その担い手たちが人びとの自由な往来に依拠している点では、巨大な自由都市文明である。60年代のカウンターカルチャー、90年代のシリコンバレーブームに続く、第三の「抵抗の時代」の拠点として、2020年代のカリフォルニアを位置づけることができそうだ。

カリフォルニアは全米で人口が最大の州でもあり、そこで確立された法律などの社会的ルールはデファクト・スタンダードになる可能性が高く、全米へのボトムアップの影響力は無視できない。シリコンバレーを抱え、テック産業のイノベーションにも積極的である分、ルールメイキングには一日の長がある。

ニューサム州知事は、Uberのようなギグ・エコノミーだけでなく、インターネット上のプライバシー問題や地球環境問題にも積極的に取り組もうとしている。なかには、Data Dividend for Californiansと彼が呼ぶ、情報化経済によって新たに生み出された「富」を、公共的な富と捉え、「配当」としてカリフォルニア州民に等しく取り分けようというアイデアもある。カリフォルニア州民のデータから創造された富については、州民の間でシェアされるべきだという考えだ。

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