たった1回転んだだけで「死亡」…高齢者転倒のヤバすぎる実態

転んで3ヵ月であの世に…
週刊現代 プロフィール

数mmのズレで転ぶ

肉体の変化だけではない。天候が変わっただけでも転倒事故は起きてしまう。2ヵ月前、自宅で転んで全治3ヵ月の怪我を負ったジャーナリスト・伊藤明弘氏(58歳)はこう証言する。

「あの日は朝から雨が降っていて、足元が悪かった。夜になってからサンダルを履いてコンビニへ出かけたんです。買い物を済ませて自宅に戻ってきたときでした。

サンダルを脱いで玄関から廊下に上がろうとした瞬間、濡れた足を滑らせて派手に転んでしまいました。

転倒した瞬間はお尻から落ちて、玄関のコンクリートに腰を強打した。尾骶骨から脳天に激痛が駆け巡りました。痛すぎて声も出ないんです。その日はもう夜遅くだったこともあって病院にも行けず、痛みを堪えて横になるしかなかった。

次の日になればマシになっているのではと期待しましたが、朝になっても痛みがひかない。町医者でレントゲンを撮っても、診断は異常なしでした」

痛みは日に日に増していき、寝返りすら打てなくなってしまった。

「これはおかしいと、自宅から一番近い総合病院の整形外科に駆け込みました。そこで精密検査を受けたところ、『第一腰椎が折れていますよ』と告げられたんです。

それから専用ギプスができるまで、1週間は簡易コルセットを巻いて過ごしました。歩く速度は杖を突いて歩く人よりもスロー。玄関で転んだ瞬間が脳裏に焼き付いているので『また転んでしまう』と、体を動かすことが億劫になるんです」

 

これまで20年以上にわたって高齢者を見てきたケアマネージャーオフィスぽけっと代表・上田浩美氏はこう語る。

「住み慣れた家では、テーブル一台、椅子一脚にいたるまで体が家具の配置を覚えている。それが少し変わっただけで、事故が起きてしまいます。

たとえば、ダイニングテーブルを買い換えた老夫婦がいたのですが、そのせいで旦那さんが転んでしまいました。この方の家でずっと使っていたテーブルは、脚が丸形だった。

ところが、新調したテーブルの脚は四角。旦那さんが椅子に座ろうとした瞬間、いつもの丸形脚の感覚で体を動かしたために数mmのズレができ、足の指をひっかけてしまったんです」

意外なところでは、行動が予測できないペットも危険だ。これはある在宅介護士の話。

「自宅で猫を飼っている85歳の男性でした。その方は8歳になるメス猫を溺愛していました。私が週2回の訪問介護にいくときも、いつもソファでテレビを見ながら猫を撫でていたんです。

私がちょうど自宅に訪問していたある日のこと。その方がトイレに行こうとした瞬間、フローリングで眠りこけていた猫が起きて動き出したんです。その方は猫を踏んづけまいと無理に踏ん張りましたが、逆効果。体勢を立て直せず、つんのめるように頭から転んでしまいました。

転倒の瞬間、全体重が頭蓋骨にかかってしまったために陥没骨折をするほどの大怪我を負ってしまいました。結局、その方は脳挫傷で亡くなってしまいました」

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では、少しでもリスクを減らすためにはなにができるのか。大阪保健医療大学准教授の山田隆人氏はこう指南する。

「家の中に障害物になるものは極力置かない。これが鉄則です。高齢者は『モノを大事にしなければならない』という感覚が強い分、障害物になるものでも捨てられない。

つまずきやすい日用品も、目に見える場所に置く傾向があります。思い切って自宅のものを整理することが大事です」

大がかりなバリアフリーも有効だが、コストがかさむ上に時間もかかる。体が動かなくなってしまってから改修を始めても、手遅れだろう。

だからこそ、普段から目につくものは床に置きっぱなしにせず片づける。簡単にできることほど元気なうちからやっておいたほうが良さそうだ。