たった1回転んだだけで「死亡」…高齢者転倒のヤバすぎる実態

転んで3ヵ月であの世に…
週刊現代 プロフィール

一度転べば、二度転ぶ

転倒は日常生活の中で突然起こる。そのリスクは、誰もが抱えている。あまりに唐突な出来事に本人も周囲も事態を飲み込めないまま、あっという間にあの世へといってしまう。

その意味では告知を受けてから数ヵ月の猶予があるがんより怖い。なんの準備もできないまま、転がり落ちるように衰弱していく。

さらに転倒が恐ろしいのが、転んで骨折した患者が熱心にリハビリをするほど、次なる事故を引き起こしてしまうこと。たとえば3ヵ月前に亡くなった佐々木和義さん(享年82、仮名)の場合。息子の哲司さん(57歳)がこう振り返る。

「父が二世帯住宅の自宅で転んだのは1年前。母の作った夕食をテーブルに運ぶ手伝いをしていたときでした。キッチンからガシャーン!と皿の割れる音が鳴ると同時に、『やっちまった!』という叫び声が聞こえてきました。

てっきり料理を落としてしまったのかと思いましたが、事態はもっと深刻。父がキッチンマットにつまずき、うずくまっていたんです」

転倒直後、哲司さんは和義さんを車に乗せ、急いで近所の総合病院へ。担当医がレントゲンとMRIを撮影したところ、右側の鎖骨と手首の骨折と診断された。

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「骨折とはいえ頭や背中ではなかったので、大事には至らなかったと胸を撫でおろしました。父もホッとしたようで、『家族に迷惑はかけられない』と3日後にはリハビリを開始。ところが、そこに落とし穴がありました。

散歩から帰宅した際、玄関の引き戸のレールに足を取られて転んでしまったんです。右腕を三角巾で固定されていたので、上半身が思うようにコントロールできなかったようです。父は玄関で頭を強打して、外傷性脳損傷を起こしてしまいました。

そのまま緊急入院しましたが、もう後の祭り。徐々に頭蓋骨に血が溜まり、そのまま死んでしまった。無理をさせずにしばらくは安静にさせておけば良かったと、いまでも後悔が残ります」

転倒はこのような二次被害が多いのも特徴だ。転ぶことで起きる怪我でもっとも多いのは股関節回りの大腿骨骨折だが、股関節は歩行の支点。

そこが折れることで体全体のバランスが崩れて再び転倒、もう片方の足も折って歩行不能に陥ってしまう事故も多発している。

 

転んだことが原因で死んでしまった高齢者は後を絶たない。例を挙げよう。いずれも外出先ではなく、住み慣れた家の中での悲劇だ。

・86歳の男性が、自宅トイレで用を足し、立ち上がった直後にマットで足を滑らせる。その際、便器に頭を強打し多量出血。妻がすぐ発見して救急車で運ばれる。一時は意識を取り戻すも、病状は回復せずに脳挫傷で死亡。

・日課だった庭の手入れをしていた76歳の男性。前日に自分が無造作に放置してしまったホースに引っ掛かり転倒。大腿骨転子部骨折で患部を金属製の人工骨頭に入れ替えた。だがリハビリを始めても回復せず、1ヵ月後には寝たきりになり、心筋梗塞を発症して死去。

・ベランダに干していた洗濯物を取り込んでいた76歳の女性。ベランダからリビングに戻る際、段差につまずく。両手が洗濯物で塞がっていたせいで手をつくこともできず、頭部を打ち付ける。頸椎骨折と頸髄損傷を併発して落命。

・昼食を作っていた79歳の女性。調理後、換気扇のスイッチを切るため台所にあった踏み台を使おうとしたところ、踏み込む力が足りずに転げ落ちる。その際、キッチンに置かれた食器に体が触れ、グラスも一緒に落下。顔面にガラスの破片が突き刺さり20針を縫う。傷口から細菌が感染し、敗血症で死亡。

・入浴していた85歳の男性が浴室から出ようとしたが、足が上がらずにバランスを崩して浴槽から転げ落ちる。さらにタイルに残っていた石けんの流し残しに足を滑らせて胸椎圧迫骨折。脊椎が変形して歩行不能に。在宅介護を受けていたが、多臓器不全で亡くなった。

・毛糸でできた厚手の靴下を履いていた82歳の女性が、フローリングのリビングで足を滑らせて転倒。大腿骨と鎖骨、手首の骨を折る。腕を自由に動かせないことで食事量が減り体重が激減。点滴生活を送っていたが衰弱し、脳梗塞で死亡。

・'18年の西日本豪雨を経験した大阪在住の77歳男性。自宅の廊下に備蓄用の食料や水分を置いていたが、夜にトイレへ行く際に緊急時の備蓄バッグに足をひっかけて転ぶ。股関節脱臼と右手首骨折を併発。股関節の激痛のせいでリハビリができないままウイルス性肺炎を発症。病状が悪化し、そのまま帰らぬ人に。

それまでは当たり前だと思っていた日常が崩壊し、死んでしまう。転倒は、いまこの瞬間、あなたにも訪れるかもしれないのだ。