広告の未来、それは「脳」の争奪戦かもしれない

ほんとうの「哲学」の話をしよう
岡本 裕一朗, 深谷 信介 プロフィール

深谷  わたしたちは脳によってすべてを支配されているわけではないということも言われますが。

 

岡本  それはそうなのだろうと思います。しかし、脳を刺激すれば人間を一定の方向に動かすことができるということ、それ自体も間違ってはいない。

まだ大雑把なことしかわかっていませんから、どれくらいの期間でどれほど細かいところまで解明が進んでいくのか、そこはわかりませんが、一部を変化させれば全身に変化が生じるということは、脳にかぎらず遺伝子に関しても言えることで誰も否定しません。

最近では、多くの脳科学者たちが、犯罪行為はある種の脳のシステムエラーであると考えているようです。したがって脳を解明しないことには片がつかない、ということになる。

全体はわからなくても、一部において解明しつつある事実があるとして、その事実がこれまでのわたしたちの考え方を根底から揺るがすようなものならば、そこには当然、社会も経済もそれによって大きく変化していく可能性が見出せるし、その探求が求められます。

認知科学という新しい学問が、いくつかの学問の学際領域として論じられてきたのもそのためですし、行動経済学が脳科学と結びついていったのもそのためです。脳科学によって、人々の選択行為がどのようにおこなわれているかの分析が進めば、経済的な行動も脳科学によって説明できる部分が出てくる。

脳の解明が進めば、おそらく広告のあり方も脳にダイレクトに影響を与えるにはどうすればよいかを考えはじめることになるだろうと思います。広告会社のターゲットは、脳になると思います。

〔PHOTO〕iStock

深谷  広告とはそもそも、というお話をしたときに、それは心地よい・聞こえのよいところだけが先鋭的に届く仕掛けだとぼくは言いました。その一例として、10万円のものをある条件のもと「無料」「10円」で売るという広告手法などを提示して、広告が事実からどんどん乖離していく現状について議論させてもらいました。

しかしいま先生のお話をお聞きして、この「無料」とか「10円」というものが、広告コピー、つまり記号論的なラベルなどではなく、じつはダイレクトに脳を刺激する信号=パルスなのかもしれないと思いました。

「無料」「10円」はすごく聞こえのよいものですよね。その心地よさは、安いとか得するとかそういった経済的な計算の回路をたどる必要もなく、脳が喜ぶ信号なのだと。それはもはや、脳内に幸せホルモンや癒しホルモンの分泌を促すパルスになっているのだろうと思いました。

そうなると、これから広告はターゲットの脳のなかをのぞき見られるようにならないといけない。「指1センチ」の消費は今後、「脳一瞬」の刺激反応へと変化していくのかもしれません。