10月12日 人工呼吸装置「鉄の肺」の初使用(1928年)

科学 今日はこんな日

地球のみなさん、こんにちは。毎度おなじみ、ブルーバックスのシンボルキャラクターです。今日も "サイエンス365days" のコーナーをお届けします。

"サイエンス365days" は、あの科学者が生まれた、あの現象が発見された、など科学に関する歴史的な出来事を紹介するコーナーです。

この日、アメリカ・ボストンの小児科病院で、通称「鉄の肺(Iron Lung)」と呼ばれる人工呼吸器が、はじめて患者に対して使用されました。

鉄の肺は、首から下がすべて収まる気密タンクになっていて、タンク内の気圧を外部より低い陰圧にすると、患者の胸郭が広げられて吸気がおこり、外部と同じ平圧に戻すと胸郭の弾性によって肺がしぼんで呼気がおこります。これを繰り返して、肺を膨らませたり、しぼませたりする仕組みです。

胸郭は、かごのように取り囲む肋骨と、肋骨間に張る肋間筋、胸部の底にあたる横隔膜などの胸壁の筋から構成されています。呼吸運動は、これらの筋が収縮したり、弛緩したりすることで、胸郭の容積を大きくしたり、小さくしたりして、肺が受動的に伸び縮みすることで行われます。肺自体は、自発的に動くことはできません。

【図】呼吸運動
  呼吸運動の概略を示した図。肋間筋、横隔膜などの筋と肋骨や胸骨の運動が連動して、胸郭の容積を変え、肺が伸びたり縮んだりする schema by iStock

筋に麻痺などの障害がおこって胸郭の運動に支障をきたすと、肺の伸び縮みも困難になり、うまく呼吸運動ができなくなります。鉄の肺は気圧の増減によってこの胸郭とそこに収められた肺の伸縮させ、呼吸を助けたのです。

1950年代ころを中心に、鉄の肺は広く用いられ、とくに世界的なポリオ(急性灰白髄炎、poliomyelitis)流行時には、麻痺による自発呼吸が困難になった方など、たくさんの患者の命を救いました。日本でも100台あまりが導入され、昭和30年代から40年代前半にかけて使用されたといいます。

  鉄の肺を使用している患者さん

しかし、全身を覆うため患者のケアが難しいことや、大掛かりで高価なため、肺に空気を押し込む方式の人工呼吸器(陽圧人工呼吸器)が開発されると、そちらが多く使われるようになりました。

また、ワクチンの開発と積極的な接種勧奨によってポリオは多くの国で制圧され、患者自体が減少しました。

【写真】鉄の肺
  ロンドンの医学博物館"ウェルカム・ギャラリー(医療機器メーカーの資料館)"に展示されている鉄の肺を使用した治療時の再現。イギリスでも1940~50年代の世界的なポリオ流行の際に多くの患者が発生した

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