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不都合なデータや表現は加工・修正…「インスタ化」する政治の危うさ

「イメージを飼いならす」政治

「『非正規』という言葉をなるべく使うな」。厚生労働省内でそんな指示をするメールが出されていたことが報じられた。

こうした、政府が自身にとって不都合な表現や統計や資料を、加工・修正・破棄してしまう例は、近年、枚挙にいとまがない勤労統計で不正が行われ、「氷河期世代」を「人生再設計世代」と言い換える提案がなされ、あいちトリエンナーレへの補助金不交付が決定されるプロセスについては議事録が作成されてさえいなかった。

まるでインスタで画像を加工するかのような気楽さで、重要な指標や表現に手を加え、「見せたいもの」だけを世間に見せようとしたり、政権幹部をイケメン武士としてイラスト化した例に象徴されるように、なんとなく「いいね」な印象を国民の間に流通させようとしたりする——そんな「インスタ的政治」が出現しているのではないか。メディア文化論が専門の筑波大学准教授・清水知子氏が指摘する。

政治の「視覚的技術」

つい最近、韓国の電子メーカー・サムスンが興味深いAIを開発した。一枚の写真画像に写ったモナリザが生命を吹き込まれたかのように語りかけ、豊かに表情を変えていく。

動くモナリザだ。

 

この生きた肖像は、AIが、写真や絵の中にいる人物の顔から目印になる特徴を抽出し、すでに学習した7000近い人物の画像や動画のデータを参照しつつ作成したものだ。まるで『ハリー・ポッター』シリーズに出てくるホグワーツの肖像画を思わせる魔法のような科学技術である。

日本の企業もまた実在しない人間の全身モデル(もちろん動く)を自動生成するAIを開発している。今年フロリダ州のダリ美術館では、サルバドール・ダリがAIとして蘇るイベントが企画された。

今では本物そっくりのフェイクCG動画がネットに溢れている。たとえば、有名女優のフェイクポルノ、「人々のデータを1人の男がコントロールすることを想像してください」とニュースで訴えるマーク・ザッカーバーグ、「トランプ大統領は救いようのないマヌケだ」と主張するオバマ前大統領…。

AIによる画像生成技術は、ディープフェイクとして、私たちを居心地悪くさせる「存在論的不安」を与えつつもある。

こうしたデジタル技術が進展する現代にあって、「イメージを飼いならす」技術はどのように社会に浸透しているのだろうか。最近の事例をもとにデジタル社会における政治の視覚的技術について考えてみよう。

あらかじめ予告しておけば、現今のデジタル社会とは、あたかもインスタグラムで画像が加工されるように、重要な数値やイメージ(画像・映像)が恣意的に操作・修正・加工され、そのことによって何かが隠蔽されるかもしれない厄介な社会なのだ。

反転されていた新紙幣の肖像

今年4月、新紙幣のデザインが発表された。

新札の顔に登場することになったのは、日本の資本主義の父とされる渋沢栄一(1万円札)、津田塾大を創始し、日本における女性教育の先駆者である津田梅子(5000円札)、近代医学の基礎を築いた北里柴三郎(1000円札)だ。

なかでも津田梅子の見本は、数多くの議論を引き起こした。津田塾大学が提供した写真の肖像が反転されていたのだ。

津田梅子の肖像が反転していたイメージ図(財務省のサイトより引用)