イギリス在住の元保育士で、文筆家として活躍するブレイディみかこさんが今年(2019年)6月に上梓した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)が本屋大賞ノンフィクション賞にノミネートされ、大きな話題となっている。

福岡県出身のブレイディさんは1996年にイギリスに移り住み、保育士資格を取得。「底辺保育所」(ブレイディさん)で働きながら、子育てをし、文筆活動を続けてきた。本書はブレイディさんと元銀行員で現在は大型ダンプの運転手をしているアイルランド人の配偶者との間に生まれた“ぼく”が、カトリックの名門小学校から、「元底辺中学校」に入学した、最初の1年半の日々をつづったノンフィクションだ。

そもそもなぜ“ぼく”は、生徒会長も務めた「市のランキングで常にトップを走っている名門校」(『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』より、以下同)から、「いじめもレイシズムも喧嘩もあるし、眉毛のないコワオモテのお兄ちゃんやケバい化粧で場末のチーママみたいになったお姉ちゃんもいる」元底辺中学校に入学したのだろうか。一時帰国しているブレイディさんに話を聞いた。

取材・文/長谷川あや

白人労働階級の学校にわざわざ?

“ぼく”が通っていた公立カトリック小学校の生徒たちは、ほぼ100%カトリックの中学校に入学する。しかし、小学校最高学年になると、「『ホワイト・トラッシュ(白い屑)』という差別用語で表現される白人労働階級の子どもたちが通う」地元の中学校から学校案内の招待状が送られてきた。

ミュージカルにもなった大ヒット映画『リトル・ダンサー』は炭鉱で働く白人労働階級の話だった

少し前まで常に底辺にいたその中学校のランキングが、近年浮上していることに興味を抱き、“ぼく”と見学会に出向いたブレイディさんは、たとえば授業についていけない子どもたちを部屋の隅っこに放置していた名門校とは逆に、ひとりひとりに向き合って関わっている学校の雰囲気や、音楽教育に力を入れるなどのユニークな教育法がすっかり気に入る。しかし、最終的な判断は“ぼく”が下し、「元底辺中学校のようなところは見渡す限り白人英国人だらけ」の中学校に入学を決めた。

「息子は私が気に入っていたことは察していて、その影響は大きかったと思います。ただ、白人のイギリス人が多い学校で、かつて中国人の子どもがいじめられて転校したという話も耳にしていたので、配偶者は心配していました」

準備クラスを含め、7年間通った名門のカトリック小学校は、1学年1クラスのこぢんじまりした学校だった。

「差別的なことは一切なく、みんな兄弟姉妹のようでした。ただ、ママ友たちが息子が元底辺校に変更したのを不思議に思っていたことは、空気でわかりました。入学して1年ほど経った後、息子にこの学校に来てよかったかと聞いたら、よかった、と答えていました。理由を聞いたら『音楽が好きだから』って。いまは学校の年末の公式行事でもロックコンサートですが、カトリックの学校では教会で聖歌でしたから(笑)」

見学に行った際、元底辺校ではブルーノ・マーズの「アップタウン・ファンク」を子どもたちが演奏して盛り上がり、学校で聖歌しか体験していなかったブレイディさんたちは驚愕。廊下には名だたるブリティッシュ・ロックのアルバムジャケットが飾られており、ビートルズからセックス・ピストルズまで! 写真ははカントリーミュージックの聖地・アメリカのナッシュビルの学校での授業 Photo by Getty Images