# 遺伝子

山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」

生命科学の危険性とは何か?
山中 伸弥, 浅井 健博 プロフィール

研究者の倫理観が弱まるとき

浅井 遺伝子には多様性を広げる仕組み、あるいは局所的な変動に適応する仕組みが組み込まれています。遺伝子は、今現在の僕らを支えつつ、将来の変化に対応する柔軟性も備えているわけです。その仕組みに人の手を加えることはどんな結果につながるのでしょうか?

山中 ダーウィンは、進化の中で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者であると言いました。

適応力は、多様性をどれだけ保てるかにかかっています。ところが今、人間はその多様性を否定しつつあるのではないか。僕たちの判断で、僕たちがいいと思う方向へ生物を作りかえつつあると感じています。

生物が多様性を失い、均一化が進むと、ちょっと環境が変わったとき、たちどころに弱さを露呈してしまいます。日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいると思います。

 

浅井 しばらくは大丈夫と高をくくっていましたが、あっというまにそんな事態に陥るかもしれません。だからこそわれわれは番組制作を通して、警鐘を鳴らす必要があると考えています。

一方、山中さんは番組の中で「研究者としてどこまでやってしまうのだろうという怖さがある」と発言されています。

多くの研究者の方々はルールに従い、何をしていいのか、してはならないのかを正しく理解していると思いますが、研究に歯止めが利かなくなると感じるのはなぜでしょうか?

人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験

山中 人間は、特定の状況に置かれると、感覚が麻痺して、通常では考えられないようなひどい行動におよぶ場合があるからです。そのことを示したのが、アイヒマン実験です。

浅井 有名な心理学実験ですね。アイヒマン(アドルフ・アイヒマン)はナチス将校で、第二次大戦中、強制収容所におけるユダヤ人大量虐殺の責任者でした。

戦後、死刑に処されました。彼は裁判で自分は命令に従ったにすぎないと発言しました。残虐というよりは、内気で、仕事熱心な人物に見えたとも言われています。

裁判を受けるアイヒマン(Photo by: gettyimages)

山中 そんな人物がどうして残虐になり得るのか。それを検証したのが、イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが行ったアイヒマン実験です。

この実験の被験者は教師役と生徒役に分かれ、教師役が生徒役に問題を出します。もし生徒役が問題を間違えると、教師役は実験者から生徒役に電気ショックを与えるように指示されます。

しかも間違えるたびに電圧を上げなければなりません。教師役が電気ショックを与えつづけると生徒役は苦しむ様子を見せます。ところが実際には生徒役はサクラで、電気など通じていない。生徒役の苦しむ姿は嘘ですが、叫び声を上げたり、身をよじったり、最後には失神までする迫真の演技なので、教師役は騙されて、生徒役が本当に苦しんでいると信じていました。

それでも、教師役を務めた被験者の半分以上が、生徒役が失神するまで電気ショックを与えた。教師役の被験者がひとりで電気ショックのボタンを押すのなら、そこまで強いショックを与えられなかったでしょう。

ところが、白衣を着て、いかにも権威のありそうな監督役の実験者から「続行してください」とか「あなたに責任はない」と堂々と言われ、教師役はボタンを押すのをためらいながらも、どんどんエスカレートして、実験を継続したんです。

浅井 ショッキングな実験結果ですね。権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう。