# 遺伝子

山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」

生命科学の危険性とは何か?
山中 伸弥, 浅井 健博 プロフィール

「こんなことまでできるのか」

浅井 まず今回の番組の感想をお聞かせください。山中さんのご研究と関連して、興味を持たれたところ、面白いと感じられたところはございますか?

山中 番組で扱われた遺伝子やゲノムは、僕たちの研究テーマですから、内容の大半に馴染みがありました。しかし、DNAから、顔の形を予測する技術には、正直、ビックリしました。

浅井 どのあたりに驚かれたのですか?

山中 研究の進展のスピードです。僕の予想以上のスピードで進んでいる。番組の台本をいただく前に、取材先の候補とか、番組の中でDNAから顔を再現するアイデアをあらかじめ教えていただきましたね。その段階では、DNAからの顔の再現は、将来は実現可能だとしても、まだしばらく無理だろうと思っていました。

しかしその後、関連する論文を自分で読んだり、実際に映像を見せていただいたりして考えをあらためました。「こんなことまでできるのか」と。

僕たちも、以前は自分の研究とは少し異なる分野の関連する論文も読んでいましたが、今は数が多くなりすぎて、とてもすべてをフォローできません。番組のもとになった、中国の漢民族の顔の再現の研究についてはまったく知りませんでした。もっと勉強しないとダメだと思いましたね。

 

浅井 今回の番組をご覧になった視聴者の方が寄せた声から、研究の進展のスピードや精度の向上が大きな驚きを持って受け止められたことがわかりました。

一方で、「悪用も可能ではないか」「遺伝子で運命が決まるのではないか」と不安や恐れを感じられた方もいました。山中さんは、こういった技術に対する脅威あるいは危険性を、どう考えておられますか?

山中 以前はDNAの連なりであるゲノムのうち2%だけが大切だと言われていました。その部分だけがタンパク質に翻訳されるからです。

ところが、タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになったのです。

(Photo by:福森クニヒロ)

さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました。

iPS細胞も遺伝子を導入して作りますが、そのときエピゲノムに大きな変化が起こって細胞の運命が変わります。ですから、最先端の生命科学研究のひとつひとつを詳しくフォローできないまでも、その研究の持つ意味については、僕もよく理解していたつもりです。

もちろん理解できることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。すでにゲノムを変えうるところまで技術が進んでいるからです。

宇宙が生まれて百数十億年、あるいは地球が生まれて46億年、生命が生まれて38億年、その中で僕たち人類の歴史はほんの一瞬にすぎません。しかしそんな僕たちが地球を変え、生命も変えようとしている。

長い時間をかけてできあがったものを僕たち人類は、今までになかった方法で変えつつある。よい方向に進むことを祈っていますが、一歩間違えるととんでもない方向に行ってしまう。そういう恐怖を感じます。番組に参加して、研究がすさまじい速度で進展することのすばらしさと同時に、恐ろしさも再認識しました。