社会と切り結ぶ児童書たちが続出
ここ数年、『むこう岸』以外にも、貧困をテーマにした児童書が出版されています。
今年刊行された児童書をみますと、中島信子さんの『八月のひかり』(汐文社)が注目を集めています。母と弟と三人で暮らす小学五年生の少女が友だちと遊ぶことなく、働く母に代わって家事をしている夏休みが描かれていますが、「いつもおなかがすいているから」遊ばないという彼女のおかれた状況、貧困の描写は真に迫るものがあります。
また、上條さなえさんの『月(るな)と珊瑚』(講談社)は、沖縄で暮らす勉強ができない小六の少女の日記というスタイルで、上空から響いてくるオスプレイの爆音に震える小学校生活や、貧しさ故に夢を持てないと考える少女たちの日常が描かれます。
一昨年に刊行された、栗沢まりさんの『15歳、ぬけがら』(講談社)は、ゴミ屋敷となっている市営住宅で暮らす中三の少女が、学習支援塾との出会いから、自分の将来を見つめるきっかけをつかむストーリーです。
児童書に対して、「子どもには『こうあってほしい』という、教育的な見地から書かれた話が多そう」という印象を持っている人も少なくないでしょう。しかし、いまご紹介した物語は、どれも、子どもたちよりもむしろ大人たちが目をそらしたい現実をストレートに提示しています。いえ、「教育的」どころか、大人たちが、子どもたちから遠ざけていたり、説明ができない現実を子どもたちに伝えているとも言えます。
現実をシビアに描いた児童書は、「貧困」のみならず、さまざまなテーマの作品が刊行されています。建前でなく本音をむき出しにして対象読者に迫る児童書の書き手が増えているということでしょう。
若年層を対象読者としている児童書であるがゆえ、どれだけ設定がシビアであっても、物語として面白く、ラストまで興味を引き続ける作品が多いのも特徴です。そのため、大人が読んでも、自分の知らない現実に触れる好テキストとなり得ます。
秋の夜長、『むこう岸』という児童書がジャーナリズムの世界から光を当てられたのをきっかけに、「リアル路線の児童書」に注目してみてはいかがでしょうか。
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