7人に1人が貧困に…貧しさを生きる、看過できない「子どもの現実」

児童書が「貧困ジャーナリズム賞」を獲ったワケ
片寄 太一郎 プロフィール

賞の主催である「反貧困ネットワーク」は、『むこう岸』の受賞理由として、「母子家庭の子どもや外国にルーツをもつ子ども、そしてその『対極』にあると一般に考えられている学歴競争の中で苦しむ子どもの双方にやさしいまなざしを向けている」「生活保護制度の利用と進学の関係など、最新の情報にもとづいて記述されており、生活保護制度への正確な理解を促しているという点でも特筆すべき小説」といったことを挙げています。

安田夏菜さんは以前から、「子どもの貧困問題」をテーマにした物語を書きたいと思いを温めていました。しかし、問題の大きさに書きあぐねていたとき、思い出したのが中学生時代の読書体験だったそうです。

「ヘルマン・ヘッセの、『車輪の下』という物語でした。あのお話、ご存じですか? 町でいちばん賢いハンスくんが、周囲の大人の期待を一身に背負って受験勉強を重ね、エリート神学校に合格するんです。けれどその後、ドロップアウトして故郷に返され、ある日お酒をたくさん飲んで、川に落ちて死んでしまう。そういう悲劇的な物語なんですね」

彼はなぜ、死ななければならなかったのか。彼の優秀な頭脳を生かす道は、どこかになかったのか。少女だった安田さんは、その気持ちを長いこと、心に持ち続けていたといいます。

 

「貧困問題を書きあぐねていたとき、ふと考えました。あのハンスくんが今の日本に生き返って、私と一緒にこの問題を考えてくれないだろうかと。貧困問題の解決は、当事者だけの力では到底不可能です。ハンスくんのように、優秀な頭脳を持つエリートの力。貧困と対岸にいる人たちの力が、どうしても必要なんです。そして彼ら自身も、対岸とつながっていくことで、自分自身が救われるのではないかと

格差によって分断されつつある人々が、互いに互いを救いあう社会であってほしい。「むこう岸」には、安田さんのそういう願いもこめられています。

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