「CO2を排出せずに」燃やすには…? 炎に魅せられた研究者が語る

カギを握るのは「純粋な酸素」
新版・窮理図解 プロフィール

純粋な酸素を使えば、排出されるのはCO2と水(H2O)だけになる。そこで、燃焼ガスを冷やして、凝結した水を取り出せば、CO2だけが回収できるというわけだ。現在、回収したCO2を圧縮して液体状にし、深海底に貯留するなどして大気中に出さない方法が検討されており、横森さんの研究にも注目が集まる。

「ただし、燃焼に純粋な酸素を使うと約3000℃と高温になり、現状の燃焼装置ではそれに耐えられません。そこで、燃焼温度を現状の1500〜2000℃程度に保つために、排出されたCO2を炉に戻して循環させ、酸素濃度を下げる工夫をしています。これは従来にはなかった手法で、現在、燃焼学会内の研究会などでも取り組んでいるテーマです」

その際に、酸素とCO2の濃度をどれくらいに保てば最適な燃焼になるかを、実験とシミュレーションによって探っているのだという。

「燃焼の要は、炎の根もとにあります。この部分に適度に酸素を供給しないと、炎が吹き飛んで消えてしまうため、その制御がカギを握ります。火力発電所などの大きなプラントでは炎が消えてしまうことはあってはならないため、非常に重要な課題の1つです」

炎の「根もと」の制御が重要だ Photo by gettyimages
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また、燃焼の際に NOx(窒素酸化物)を出さないための研究も手掛けている。これは、とくに飛行機など、重量やスペースの関係からNOx回収のための後処理装置が付けられないシステムにおいて求められる技術だ。

「燃焼の際にNOxが出やすいのは、窒素が多く、炎の温度が 1800℃と高くなる場合です。そこで、空気と燃料の量を、つねにアンバランスになるように制御するのです。具体的には、温度をあまり上げないように燃料を多く入れ、その後、余った燃料に多量の空気を吹き込んで再び燃焼させるという二段階方式を採用することで、温度と燃焼をコントロールします」

本来は高い温度で燃焼させれば効率がよくなる。環境負荷をできるだけかけずに、いかに効率を上げるかが大きな課題だという。

燃焼の研究は、酸化物合成にも役立つ

もうひとつ横森さんが取り組んでいるのが、構造体として利用されるセラミック材料や、光触媒などに使われる酸化チタン、LEDやバイオマーカーに使われる蛍光体といった「酸化物」の合成である。

「酸化物の結晶は高温の酸化反応を利用するとつくりやすく、燃焼研究の知見が生かせます。そこで、さまざまな用途に使えるような数nm〜µm程度の微細な物質をつくっています。純酸素を使い2500〜3000℃の高温で物質を生成すると、きれいな結晶をつくり出せるのが特徴です。燃焼の仕方や材料の配合を変えるだけで、簡単に多様な物質がつくり出せるところも大きな利点です(図2)」

図2 研究室で合成された粒子の例
右のような装置によって、左のような多様な物質ができる
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燃焼による物質合成は珍しいが、結晶構造のいい機能性材料などの生成方法として期待されており、酸化チタンを中心に、企業からの引き合いがきているという。

「ただ、このような高温の燃焼を利用した合成では、化学反応や物質の結晶化が数ミリ秒程度の非常に短い間に起こってしまうため、狙った物質をつくりだすためにはその過程やメカニズムをよく理解して制御することが必要となります。この部分はまだまだ未解明なことが多く、研究対象として非常に面白いところです」

「燃焼の理論構築をベースにしながら、物質合成などの応用にも手を広げ、社会に役立つ技術開発をしていきたい」と、横森さんは目を輝かせる。