慶應義塾大学理工学部 横森剛准教授

「CO2を排出せずに」燃やすには…? 炎に魅せられた研究者が語る

カギを握るのは「純粋な酸素」
ロケット好きだった少年が、長じて出会ったのは「燃焼研究」の世界。
勤勉な友人や研究室の優秀な先輩たち、さらには国際色豊かな教授との出会いや海外留学を経て、研究者として身につけたのは、日々の努力を怠らない姿勢だった。
うまくいかないときでも「コツコツ努力をすれば、必ず出口は見えてくる」と新進気鋭の研究者・横森剛は語る。

自動車や飛行機などのエンジンをはじめ、発電所の心臓部であるガスタービンなど、内燃機関に欠かせない「燃焼」という現象。

古くからある研究分野だが、高効率に、できるだけ環境負荷をかけずに燃やすためには、まだまだ課題が山積している。

慶應義塾大学の横森剛准教授は、その燃焼という現象を解明する基礎研究と、燃焼による物質合成という応用研究の両方に取り組む、新進気鋭の研究者である。

意外と複雑な「燃焼」の世界

「燃焼」をテーマに研究を続ける横森剛さん。燃焼研究の歴史は古い。18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命以降、蒸気機関車や自動車、飛行機、発電機など、さまざまな内燃機関を搭載したシステムが発明され、人類に欠かせないインフラとして大きく発展してきた。

「燃焼のエネルギー源のほとんどが化石燃料であり、石油は約50年後に、石炭も約100年後には枯渇すると言われています。なので、それらをいかに効率よく使っていくのかが人類の喫緊の課題となっています」と、横森さんはいう。

たとえば、燃費がいいとされるあのハイブリッド車ですら、熱効率はいまだ38%程度で、燃料が持つエネルギーの多くは使用されずに排気などから捨てられているため、熱効率の向上はまだまだ大きな課題なのだという。

それと同時に、地球温暖化の原因となるCO2の排出も、燃焼にまつわる深刻な問題である。また、日本でもかつては大きな社会問題となった大気汚染や、最近では中国を中心に深刻化するPM2.5なども燃焼のさせ方に原因があるといい、燃焼の研究は効率化から環境対策へと課題が広がってきた。

「ところが、燃焼で起こっている現象はじつに複雑で、いまだによく分かっていない部分が多いのです」と、横森さん。

「燃焼を解明するには、刻々と変化する空気・物質の流れや拡散の状態、そして熱の状態を把握する必要があり、さらにそこで起こっている化学反応を理解しなければなりません。いくつもの要素が同時に絡みながら起こるところが、燃焼の難しさです」(図1)。

図1 燃焼の難しさ
燃焼を解明するには、流体の挙動、熱の移動、物質の移動、化学反応といった要素を同時に解く必要があり、研究すべきことは山積み
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流体にしろ化学反応にしろ、それぞれの現象に特化した専門分野が確立されている。このことからも分かるように、その解明はけっして容易ではない。それを横森さんは、従来のような経験則ではなく、理論の構築やシミュレーションの活用によって解き明かそうとしているのである。

「大気中にCO2を放出しない燃焼方法」って?

なかでも、横森さんが手掛ける研究の大きなテーマが、CO2をできるだけ排出しない燃焼のさせ方だ。

「化石燃料を燃やせば必ずCO2が排出されますが、そのCO2を大気中に出さない方法を試行しています。具体的には燃焼に空気ではなく、純粋な酸素を使うのです」