――本作には事件のニュース映像や記録映像がたくさん盛り込まれており、リアリティのある作品に仕上がっていますが、かなりの時間を取材に費やしたと聞きました。
マラス監督:12ヶ月間に渡り、生存者や警察官など40人以上に取材し、撮影が始まった後も疑問がわき上がるたびに彼らに会っていました。それに、テロリストのなかでは唯一の生存者で逮捕された犯人の裁判記録と供述調書も読み、検察官と弁護士にも取材しましたし、犯人がパキスタンのテロ本部から受けていた電話の会話や様々な証拠品も調べました。とにかく、作り手の主観が入らないように事実をあるがままに受け取り、生まれたのがこの映画です。
――だからこそ、犯人であるテロリストの視点も描いたと。
マラス監督:そうです。テロリストの罪は決して正当化していませんが、彼らも人間であり、なぜ彼らがテロに走るのかを探りたかった。テロリストたちはイスラム教徒ですが、この映画はアンチ・過激派であってアンチ・イスラムではありません。本作に登場する若いテロリストは、自分の信念に従い事件に加わりましたが、テロ本部に命令されるがままに殺人を犯していくうちに、自分の解釈していたイスラム理念がゆらぎ始め、動揺します。
そんなときに、ホテルに滞在していたイスラム教徒の女性が正しいイスラム理念をもって彼に立ち向かいます。武器も持たない彼女の正しいイスラム理念が、彼の曲解したイスラム理念を打ち負かしました。これは本当に起こったことなんです。映画のなかの女性の人物像は色々な実在のモデルを混ぜて作リ上げたキャラクターですが、実際にこの二人の対決はあったんです(詳しくは映画を参照)。