しばらく経ったある日、ニニギノミコトは深い疑心暗鬼に陥っていた。晴れて花の咲くようにうつくしい妻と二人きりになり、記念すべき初夜を過ごした――まではよかったのだが、その新妻がなんと、たった一度のセックスで妊娠したのだ。え、これ、絶対俺の子じゃないでしょ

コノハナノサクヤヒメはどきどきしていた。初産だから不安だったし、体もいつも通りとは言えない。腹が重いし、腰が痛い。気分がすぐれない。常にだるいし、やたら眠い。昨日まで自分一人だけだった体の中に、知らない生命が存在している。うれしい気持ちはもちろんあるが、出産のリスクだって知っている。しかしずっと震えているわけにはいかない。一人で妊娠するわけでなし、しかも天の神のDNAを持つ子供なのだから、父親であるニニギノミコトに伝えてから産み落とさなければ。そう思って打ち明けたところ、前述のような態度をとられたのである。

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「一回やっただけでできるって、ありえなくない? 実は地上の神の子なんじゃないの? 少なくとも俺の子じゃないんじゃないかな

「そうですか」

 サクヤヒメは奇妙に凪いだ声で答えた。

「天の神の子であるあなたの血を引く子供なら、どんなエマージェンシーが起きても加護の力によって助かるでしょう。そうでなければ死ぬでしょう」

言い残して出て行くと、彼女は突然、ドアも窓もない家を建てはじめた。ニニギノミコトが(え、ええ〜)と思っているうちに家は完成し、最後に残してあった隙間から、その中へ入っていく。

「じゃ、ここで産むんで」

そう言うとおもむろに入り口を粘土で塞ぎ、家に火を放った。