昔話の中には、理不尽な目に遭う女性がいます。彼女たちは奪われたり、捨てられたり、無理やり結婚させられたり、重責を背負わされたり、ナメられたり、敬遠されたり、ときには殺されたりします。

物語はなぜか、彼女たちの悲しみや苦悩をなんとなくスルーしたまま進んでいきます。――そういう話だから、そういうふうに決まっているから。

でも、みんな、本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。たとえば、『古事記』と『日本書紀』に登場するコノハナノサクヤヒメは、妊娠したお腹を指されて「本当に俺の子?」と疑われます。

コノハナサクヤヒメ〔ILLUSTRATION〕はらだ有彩

コノハナサクヤヒメのストーリー
(を現代語風に要約)

高天原から葦原中国(あしはらのなかつくに)※1へ、とある神が降り立った。名はニニギノミコト。祖母のアマテラスオオミカミから「葦原中国を平定したので、行って治めるように」との指示を受け、天から地上へやってきたのだ。

※1 日本の国の神話的異称。

鹿児島県を通りかかったとき、ニニギノミコトは笠沙岬(現・野間岬)で一人のうつくしい女性を見かけた。「あなたは誰ですか」と聞くと、女性ははにかみながらコノハナノサクヤヒメ、と答えてくれた。かわいい! すごくかわいい! とニニギノミコトは思った。「ごきょうだいは」とたずねると、姉が一人。あまりにかわいいので思い切ってプロポーズすると、「父に聞いてみないと……」とのことだった。

父・オオヤマツミは天の神の子の申し出をよろこんでくれた。オオヤマツミの意向で「姉も一緒に嫁がせよう」という運びとなり、コノハナノサクヤヒメは、姉のイワナガヒメとともにニニギノミコトのもとへ向かった。

ニニギノミコトはびっくりした。うつくしいコノハナノサクヤヒメと結婚しようと思ったら、なんか、一人増えてる。しかもその増えてる一人が、かわいくない!

彼はイワナガヒメの容姿を醜いと感じた。醜い妻なんか欲しくないので帰るよう言い渡し、コノハナノサクヤヒメだけを残した。

それを知ったオオヤマツミはドン引きする。コノハナノサクヤヒメは繁栄を、イワナガヒメは盤石で力強い生命力を司っていた。天の神の子が「未来永劫」「栄え続けるように」と願って二人を送り出したというのに、なんということだ……。