『なつぞら』が描いた「昭和アニメ」の圧倒的魅力を振り返る

こんなにたくさんの作品があった
堀井 憲一郎 プロフィール

『キックの鬼』は、その後、梶原一騎のひとつの得意分野となる実在の格闘家をやや神格化してドラマにしていく物語であった。

『なつぞら』ではわざといくつかのアニメ要素を混ぜ、モデルを特定しにくくしてるが、これもその手法なのだろう。

 

『タイガーマスク』の衝撃

『キックジャガー』を見ると、そこへの道筋をつけた『巨人の星』を強くおもいだす。このドラマではそういうスポーツ根性アニメがほぼ触れられていなかった。

当時の1960年代の小学生にとっては(私は昭和39年から昭和44年の小学生だった)スポーツ漫画といえば『巨人の星』である。あとからやってきた大学生と下の世代が『あしたのジョー』を評価するようになったが、当時、社会現象といっていいほどの反響を呼んでいたのは『巨人の星』のほうである(女性向けだと『アタック№1』)。

梶原一騎作品が大人気となり、それが『タイガーマスク』の人気へとつながっていった。『タイガーマスク』と『あしたのジョー』はともに孤児院育ちの孤独な青年のスポーツ漫画であり、梶原一騎が持つ暗く熱い情熱を見事に反映している。1970年前後は、みんな真面目に生きていたので、暗い物語がけっこう人気だったのだ。

『なつぞら』ではなつが『キックジャガー』のラストをどうするか、熱心に話し合っていたが、実際の『タイガーマスク』の最後も衝撃的だった。

原作漫画とアニメのラストは違う。私はすでに中学生となっており、毎週、熱心に少年マガジンを買って読んでいたので、原作のラストに先に出会っている。(アニメのほうも見たけれど、原作と全然ちがうじゃん、という記憶しかない)。

『タイガーマスク』は、ぼくらマガジンという雑誌に連載されていたのだがその雑誌が廃刊になり、1971年の半ばからいきなり少年マガジンに移ってきた。毎週読んでいる漫画にはさまって、いきなり途中から漫画が始まったので戸惑った。それにも慣れてきたころ、移転半年くらいで、唐突に、何でもないようにタイガーマスクは交通事故で死ぬんである(ネタバレですね。ごめん。アニメのラストとは違う)。何でもないようにすっと死ぬ描写がかえって衝撃的で、川べりで死んだシーンをとてもおぼえている。強く拍子抜けした。

次になつの描くアニメは131話(8月30日放送)からの『魔界の番長』だった。一瞬なにかわからなかったが、内容を聞いてああ、『デビルマン』かと納得して、同時に少し驚いてしまう。『デビルマン』も少年マガジンに連載されていた漫画で、最初から最後まで連載で読んだ。そのラストは、衝撃というものを乗り越えて、戦慄的だった。
『デビルマン』のラストは漫画史上に残る衝撃作だとおもう。