『なつぞら』が描いた「昭和アニメ」の圧倒的魅力を振り返る

こんなにたくさんの作品があった
堀井 憲一郎 プロフィール

これは「狼少年ケン」だけではなく、私のなかでは「遊星少年パピイ」「宇宙少年ソラン」「スーパージェッター」などがすべて同じ毛色の作品だった。

少年ものなのに、恋愛感情にも似たような気持ちが喚起される。恋愛感情と書いてしまうと少し違う。性的な方向を含めた不思議な興奮、と名付けたほうがいいかもしれない。そういうややこしい感情である。小学校低学年だったので、その感情がどういうものかもよくわかっていなかった。でもそういう不思議な感情にかき乱される感覚だけは強く覚えている。

これは見てる者たちがみな感じていたわけではないのだろうが、世界で私一人だけの抱いていた感情だともおもえない。いま動画を見ても、当時の胸のざわつく感じを思い出せる。幼かったので性差と関係なく、憧れるヒーロー存在をセクシーに、というか少年の模索するような性的興奮のなかで受け止めていたと言えば近いかな。ヒーローが危機に陥る部分で妖しい気持ちになった。おそらくこれはアニメの絵の力だとおもう。子供の意識してない奥の感情を引き起こす力があったのだ。

でもこれは消えていく。

私が成長して小学校高学年になったからか、それともアニメ制作現場が対象をもっと「子供子供した存在」と捉えなおしたからか、やがてそういう妖しい力はテレビアニメから消えていったように感じた。

 

もっと目に見えてわかりやすく『リボンの騎士』などの倒錯に収斂されていった。

『なつぞら』でいえば『百獣の王子サム』にセクシーさがあったが、『魔法少女アニー』(115話/8月12日より)からはまったく消えていた。現実のアニメでいうなら『狼少年ケン』にはあり『魔法使いサリー』にはまったくなかった。

女の子向けのアニメが出てくると同時に消えていったようにもおもう。作り手が何かを避け始めたのではないだろうか。

私にとって初期TVアニメにだけあったと感じるある種のエロスは、昭和アニメの魅力のひとつであり、謎でもある。

『なつぞら』で127話から(8月26日)出てきた『キックジャガー』あたりから、スポーツアニメが人気となり、アニメ世界はまったく違う段階に入る。

『キックジャガー』は沢村忠の写真が紹介され、真空飛びひざ蹴りの話も出ていたので、ああ、『キックの鬼』かとおもってみていたが、覆面ボクサーだと聞いて、あ、『タイガーマスク』も入れたのかと最初におもった。

キックボクシングは、当時、大人気だったが(個人的な記憶によると毎週月曜はキックボクシングの日、という記憶になっている。未確認)、覆面のキックボクサーはいなかった。アニメの展開を見る限り、『キックジャガー』は『タイガーマスク』である。『キックの鬼』の要素は、ちょっとだけぱらぱらっと振りかけた、くらいでしかない。