NHKは日本郵政の「圧力」になぜ屈したか、ウラに隠された事情

「放送法改正」という「人質」があった
竹中 明洋 プロフィール

「悲願」を人質に取られたNHK

昨年4月の放送は、かんぽ生命保険の不適切販売の実態を最初に指摘したもので、私もテレビで見たが、丹念な調査に基づいた説得力のある番組だった。今になってみれば、この放送を受けて他のメディアも追随してこの問題を取り上げ、金融庁も調査を始めたわけである。放送があった当時、ことの重大性を十分に認識せずにNHKに抗議する日本郵政の居直りぶりこそが大いに問題だと思うのだが、それにしても、なぜNHKはこうも弱腰だったのか。

カギは、抗議してきたのが、日本郵政だったことにある。日本郵政には、元総務次官だった鈴木康雄副社長をはじめ総務省の元幹部が多い。総務省は放送行政を所管する。要は、NHKは頭が上がらないのである。

 

そして、見逃してはならないのは、NHKがこの番組を放送し、続編の放送に向けて情報提供を呼びかけていた時期は、放送法の改正案の作成に向けた作業が総務省内で大詰めを迎えていた時期と重なっていたということだ。この改正案は、NHKによるテレビ放送のネットでの同時配信を可能とするもので、民放連や新聞協会から「民業圧迫だ」との反発を受けながらも、成長著しいネット市場への本格進出を目指すNHKにとって悲願とされてきた。

総務省では、「放送を巡る諸課題に関する研究会」でNHKのネット同時配信について長いあいだ議論を進め、昨年9月の第二次取りまとめに、それを認める内容が盛り込まれた。今年3月には放送法の改正案が閣議決定され、国会に提出。5月に成立した。延期されていたかんぽ生命保険の不適切販売問題の続編が「クローズアップ現代+」で放送されたのは、ようやく今年7月である。

「やはり総務省が関わる問題を触るなという雰囲気が局内にありました。日本郵政を敵に回したくなかったのも、総務省に睨まれて放送法改正の作業に影響が出るのを避けたかったからでしょう」

NHKの関係者はそう話す。

なお、改正放送法では、NHKにネット同時配信を認める一方で、NHKグループの適正な経営を確保するための制度の充実を求めている。改正案の概要を説明した総務省の資料には、「透明で計画的なガバナンスの確保」とある。つまり、ネット同時配信を認める見返りにガバナンスを強化することが求められていたのである。日本郵政がNHKにガバナンス体制を云々してきたのは、放送法改正案の成立に向けて、まさにここに不備があるとされては困るNHKの事情を承知していたからではないか。

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