爆笑問題・太田光がハマった『お前はただの現在にすぎない』とは?

テレビとは何か、テレビに何が可能か
碓井 広義 プロフィール

テレビとは何か

それは、ドキュメンタリー『あなたは……』から始まる

「いま一番欲しいものは何ですか?」
「総理大臣になったら何をしますか?」
「天皇陛下はお好きですか?」

若い女性が、矢継ぎ早に質問を繰り出ていく。だが、その女性インタビュアーの姿は見えない。声だけだ。画面に映っているのは通勤途中のサラリーマンであり、魚河岸で働く仲買人であり、小学生の男の子である。彼らは、質問の意味を深く考える余裕も与えられないまま、質問の連射に即興で答えていく。

この後も質問は続き、やがて「ベトナム戦争にあなたも責任がありますか?」、「では、その解決のためにあなたは何かしていますか?」、さらに「祖国のために闘うことが出来ますか?」と畳み掛けていく。

829人の人々に、同じ「問いかけ」を敢行したこの番組は、それまで誰も見たこともない、斬新なテレビ・ドキュメンタリーだった。正直な言葉、取り繕った言葉、そして戸惑った表情や佇まいも含め、カメラが活写したのは1966(昭和41)年の“現在”を生きる、日本人の“自画像”そのものだったのだ。

今も放送史に残る傑作ドキュメンタリー『あなたは……』とはそんな番組であり、この年の芸術祭奨励賞を受賞した。制作したのは、当時、TBSのテレビ報道部に在籍していた36歳の萩元晴彦だ。構成は若き日の寺山修司。音楽は後に「現代音楽の巨匠」と呼ばれる武満徹である。

 

早稲田の露文科を卒業した萩元が、ラジオ東京(現TBSテレビ)に入社したのは1953(昭和28)年。奇しくも、日本でテレビ放送が開始された年だ。はじめラジオ報道部に配属され、録音構成『心臓外科手術の記録』で民放祭賞を受賞した。

後にテレビ報道部に転じてからも、『現代の主役・小澤征爾「第九」を揮(ふ)る』で、やはり民放祭賞を受賞。番組制作者として評価は高まっていく。

そんな萩元に大きな転機が訪れるのは1968(昭和43)年である。前年に制作した『現代の主役・日の丸』に対して、視聴者から抗議、非難、脅迫風の電話が殺到した。同様の投書も多数舞い込んだ。さらに、当時の郵政大臣が閣議で「偏向番組」だと指摘し、電波監理局の調査が行われる騒ぎとなった。

これに対し、会社側は萩元のニュース編集部への配転を決定。また同時期に、ベトナム戦争の内実を伝えようとした『ハノイ田英夫(でんひでお)の証言』も問題とされ、田はTBSを去り、演出した村木良彦は、萩元と同様、会社から処分を受けた。

組合側は、これらを不当として立ち上がり、いわゆる「TBS闘争」へと発展していく。

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