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「日本酒なら辛口」信仰は真っ赤なウソだった…ツウが甘口を選ぶ理由

「とりあえず辛口」から卒業しよう

なぜ辛口信仰が刷り込まれたのか

「日本酒なら辛口」——。辛口の日本酒が常に「正」という刷り込みが日本人にはあります。飲食店で日本酒を注文するとき、「とりあえず辛口で」と言うお客様がとても多いのも事実です。みなさんも一度はこの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

しかし、辛口だけが常に評価されるべきおいしい日本酒というわけではありません。むしろ日本酒は、お米由来の「旨味」や「甘味」を楽しむお酒です。ではなぜ、この「辛口=おいしい」という通説が正しいものだと刷り込まれてしまったのでしょうか?

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大きく考えて2つの側面があるのではないかと私は考えております。1つ目は、日本酒が辿った歴史の背景と時代による酒質の移り変わりから。もう1つは、多くの酒類において、甘いお酒は初心者向きという刷り込みがあるからではないでしょうか。

1つ目の歴史背景に関しては、特に団塊世代前後の方に根強く染みついた印象があります。

遡ること戦後まもなく。食糧不足の日本では、お米の流通が統制されました。食べるお米が足りない中で当然、日本酒を造るための十分な原料を確保することなどできません。そこで生まれたのが「三倍醸造酒(三増酒)」。原料が足りない分を糖類やアミノ酸などの添加物で補っていました。少量の日本酒を三倍に水増ししていたのです。この三増酒の味わいは、濃厚でベタッとする甘口だったと言われています。

徐々に食糧不足が解消されて原料の確保が出来るようになるに従い、「灘の辛口」に代表される本格的な酒造りが再開されていきました。70年代には地方の酒蔵が注目される地酒ブームが起こります。

 

決定的だったのが、80年代後半に出てきた吟醸酒ブームです。スッキリと軽快な飲み口の「淡麗辛口」が飲み手の心を掴みました。これまで濃醇甘口の日本酒を飲んできた人々にとって、斬新な味わいとして受け入れられたのでしょう。雑味が少ないとともに、甘味も旨味も少ない吟醸酒は、多くの人の心を掴み、「辛口こそが本格的で良いお酒である」という構図ができあがってしまったのです。

つまり、時代背景の中で、甘口=粗悪なもの、辛口=良質なものという思い込みが形成されて行ったのではないかと思います。