家事の趣味化

もちろん、それまでの時代にも女性たちは、ていねいに家事をしていた。魚の煮つけは常温で長く保存できるよう何時間も火にかけた。衣類や寝具にもお金を掛けられないので、端切れで継ぎを当てるなどのメンテナンスを行った。着物や寝具は季節ごとに綿を入れたり抜いたりする。豊かで便利な時代になり、そういう手間を掛けなくて済むようになった。

その結果、家事に手をかけることは必要ではなく、趣味の領域に入り始めたのである。

家事の趣味化が進んだのは1973年、オイルショックにより高度経済成長期が終わってから。1970年代後半~1980年代前半にかけて、最初の「ていねいな暮らし」ブームが始まったのだ。

アメリカから入ってきたパッチワークキルトや、保存食、お菓子作りがブームになる。また、出版各社が、『赤毛のアン』や『メアリー・ポピンズ』などの物語に登場する料理やお菓子を作ろうと勧める、レシピ本ブームが起こる。

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味噌や漬物を家庭で作り、縫物や繕い物をすることが当たり前だった時代が遠ざかり始めたこの頃、まるで昔の生活を取り戻すかのように、欧米スタイルの手作り生活がおしゃれなものとして流行ったのだ。

それはあたかも、仕事を持つ主婦が増え始めた時代の中で、専業主婦を続ける女性たちが、自らの存在価値を手をかける家事に求めたかのようだった。それは、公害が社会問題になり、食の安全性が問われるようになったこと、校内暴力やいじめなど荒れる子供たちの事件が起こり、子供が安心して育つ環境が切実に求められ始めた時代とも無関係ではないだろう。

高度成長期もしくはその後の低成長期に育った世代が、平成になって子育てを始める。そのとき見本にするのが、昭和の後半に家事に手をかけていた母親たちの姿である。

平成の初め頃、家事や子育てとの両立が困難だと、退職した女性たちが大勢いた。それは、夫たちの協力がアテにできなかっただけでなく、母親の姿から家事に手間をかけるべきだと刷り込まれていたからである。

母と娘は2世代にわたって、「ていねいな暮らし」を心掛けた。今のブームに賛否を唱えているのは、そんな主婦の姿が当たり前、と刷り込まれた孫世代が中心である。