時間に余裕ができた結果…

この時期、家庭環境が大きく変わった。電気はもちろん、水道、ガスが完備され、台所の土間が板の間となり、家電が導入され、集合住宅に住む人も多くなった。食材の選択肢も豊富になる。農家出身の人たちにとっては、初めて食材を買う生活になる。

育った環境とは異なる新婚生活を始めた、都会の主婦たちは、自身の母親の家事のやり方を手本にすることは難しかった。彼女たちが学んだ教科書は、『主婦の友』などの主婦雑誌や『きょうの料理』などの料理メディアである。その際メディアは、例えば料理なら日替わり献立をていねいに愛情をこめて作るべき、といった心構えまで伝えている。

当時の主婦にとって、主婦業は本業の「仕事」だった。戦中戦後生まれの彼女たちは、男女平等を謳う日本国憲法で育った第一世代である。両性の合意で結婚し、新しい戸籍を作った彼らは、家父長制のもとで家長が絶対権力者だった戦前世代とは違う。見合いにせよ恋愛にせよ、自分の意志で相手を決めた自負を持つ人も多かっただろう。

そんな自ら選んだ結婚で、夫はお金を稼いで家族を養い、妻は家事と育児を受け持って家庭を支える「対等」な取り決めをした。だから、主婦業は分担した家庭責任であり、彼女たちの本職となったのである。家事に力が入るゆえんである。

一方で、新しい家庭環境は、便利で快適になっていた。水くみや火おこしが必要なくなり、重労働だった選択が機械任せとなり、食材を買って冷蔵庫で保存できる生活になる。家事が格段にラクになり、時間に余裕ができたからこそ、「ていねいな家事」はできるようになった。