4種類の組み合わせから「4.7兆分の1」を特定する「鑑定」の魅力

自称「なんでもDNA鑑定団」がゆく!
梅津 和夫 プロフィール

ところで不思議なことに生物は、生存のためには必ずしも必要ではないDNAも、多数抱え込んでいる。そして人間が行う犯罪捜査などのDNA鑑定では、このような役に立っていない部位が、通常は好んで選ばれている。

「役立たず」と思われていたものが、じつはそうでもなかったと知ったときは、私としてはなんだかちょっとうれしかった。

DNAPhoto by Martin Adams on Unsplash

人生最大の謎を解く鍵

私の本業は法医学分野で、1980年代までは集団遺伝学や親子鑑定がおもな研究テーマだったが、それ以降はDNA鑑定にどっぷりとはまっている。

ときどき「趣味は何ですか?」という質問を受けると、以前は「釣り」とか「野菜づくり」などと言ってきたが、いつのまにか「DNA鑑定」と答えるようになった。

いまでは「なんでもDNA鑑定団」を自称して(と言っても私一人なのだが)、いろいろなもののDNAを調べるのが楽しくてしかたがない。まさに「やめられない、とまらない」なのだ。

そのせいか学者仲間は私のことを、かなりの変わり者と思っているようだ。それだけに、鑑定されるDNAもじつは役立たずな存在であることに、親近感をおぼえてしまうのかもしれない。

私は子供のころからあまのじゃくな性格で、お仕着せが嫌いというか、なにごとも自分で見て、触って、感じて、たとえ間違っていたとしても自分なりに考えることが好きだった。

人生にも決められた「正解」などあるはずがないと思い、自然を相手にする仕事に就きたいと考えて山形大学農学部に進学した。ところが、何かのはずみで法医学に転身したのち、黎明期にあったDNA鑑定の研究を当時の鈴木庸夫教授に勧められ、いつのまにか熱中してしまった。

dnaPhoto by Álvaro Ibáñez / Flickr

こんなことを言うとやっぱり変人と思われるだろうが、私はつねづね、「宇宙でいちばん大きな謎は、自分自身の存在である」と考えていた。

この「自分」という存在は、いったいどこからきたのか、この世で何をしているのか、そしてどこへいくのか、そんなことを考えはじめると、きりがなくなってしまうのである。

ところが、DNA鑑定の研究をするようになって私は、この人生最大の謎を解く鍵を手に入れたような気がしている。もちろん答えはまだ見つからないが、私の中のDNAが、人生の折々にもぞもぞとメッセージを発している気がするのだ。

「幸せ」の理由も、先祖の起源もわかる

いまでもときどき、想い出す風景がある。

幼いころに昆虫の不思議に魅入られた私は、中学や高校時代によく、翼のように裾野を広げる優美な鳥海山に昆虫採集に出かけた。

現在では廃れた登り口の一つとなっている杉沢集落から山道に入るとたびたび、水墨画のように霧にかすむブナ林のたたずまいに遭遇し、なぜか「このうえない幸せ」を感じたのだ。