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4種類の組み合わせから「4.7兆分の1」を特定する「鑑定」の魅力

自称「なんでもDNA鑑定団」がゆく!
わずか4種類の塩基の組み合わせから、たった1人の個人を「4兆7000億分の1」という識別能力で特定する「DNA鑑定」。

その魅力を伝えるため、戦没者の遺骨から自身の排泄物まで、あらゆるものを鑑定してきた「DNA鑑定のプロフェッショナル」が登場! ブルーバックスでその名もズバリ『DNA鑑定』を上梓した著者・梅津和夫氏が告白する「役立たずだからやめられない」世界とは。

無限の違いを識別する宇宙望遠鏡

みなさんは「DNA鑑定」と聞いて、何を連想するだろう。

おそらく、よくテレビドラマで描かれている犯罪捜査での応用を思い浮かべる人が大半ではないかと思う。なかには親子鑑定や遺伝病などのDNA診断を受けた人もいるだろうが、一般的には、DNA鑑定など自分には縁遠いものと思われているようだ。

たしかにDNA鑑定とは、個体や種などのDNAレベルでのわずかな違いを識別する小さな学問分野にすぎない。しかし、その活躍の範囲は、いま急速に広がっている。

専門家である私にもかつては夢物語でしかなかったことが、DNA解析技術の目を丸くするほどの進歩によって次々に実現し、いまやDNA鑑定は生命の森羅万象を解明するツールとなっている。

「一個の細胞は一つの小宇宙である」といわれる。

命をもたない物質が、有機的に結合して、複製可能な細胞となることで生命が誕生した。そして生命は長い時間を経て進化をとげ、現在のように地球上に多様な生物が共存するに至った。こうした奇跡のような生命の設計図と、時間の経過による変化の行程は、たった一個の細胞にも書き込まれている。

それは細胞の中にあるDNAに、塩基の配列というかたちで保存されている。

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その情報を読み解くことは、細胞という小宇宙のなりたちを知り、生命の謎を解明することでもある。DNA鑑定とは、いわばそのための、きわめて精度のよい宇宙望遠鏡なのである。

本物の宇宙望遠鏡は光のわずかな「ゆらぎ」を利用して何億光年も先の宇宙を観測しているが、DNA鑑定で利用されるのは、塩基の配列のごくわずかな「間違い」である。細胞の設計図が複製されるときに必ず起こる間違いが、生物の個体ごとに無限といってよいほどの違いを生みだすために、個体の識別が可能になるのだ。

捜査に使われるのは「役立たずDNA」

どうも生物には、「適度に間違うこと」が、あらかじめプログラムされているようである。

それが生物を多様に分化・進化させ、時空を超えて命をつなぐうえで、きわめて重要なシステムとなっている。それを手がかりに、個体や個人の識別のみならず、生物が地球に誕生してからの激動の歴史を解き明かすことも、DNA鑑定によって可能になってきたのだ。