2019年4月、主が病気で亡くなった山形県のある一軒家で24匹の猫が見つかったニュースがあった。その前年には愛知県の市営住宅で飼い猫が繁殖を繰り返し、多頭飼育の崩壊を起こして猫が保護処分されることも。すべて不妊手術をしないことで手に負えなくなってしまった実例だ。

不妊手術というと、可哀想と思ってしまう人もいるかもしれない。ではその手術をすることでなにを守ることができ、しないことでどのようなリスクがあるのか。獣医師でもある作家の片川優子さんに伝えてもらおう。

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小柄な猫の体調不良の理由は

ある日動物病院の診療時間外に、緊急用の携帯電話が鳴った。飼い猫の様子がおかしいから診てほしいという依頼だった。

ほどなくして飼い主と猫が到着。数ヵ月前に拾った猫で、おそらく生後半年を過ぎたくらいだろうとのこと。まだ2キロ程度の小柄な猫だったが、ぐったりしており、呼吸も荒い。意識もなく、血圧も下がり、いわゆるショック状態に陥っていた。

すぐに全身の精査を行うと、驚くべきことが判明した。その猫は妊娠しており、今まさに子どもを産もうとしていたところだったのだ。どうやらまだ体が小さく、骨盤が狭いため、詰まってしまったようだった。

飼い主は愛猫の妊娠にまったく気づいていなかった。話を聞くと、先住猫の未去勢オスと仲が良く、まだ子猫だったこともあり、一緒に飼っていたのだと言う。オス猫に甘えてすり寄ったりもしていたが、母親が恋しいのだろうと思い、あまり気にしていなかったのだそうだ。

お尻周りが緑色に汚れていたことから、すでに胎盤剥離をしていることが分かった。胎盤が剥がれてしまうと、母体からの酸素供給がなくなるため、子どもの命も危ない。母体にとってもリスクは高かったが、このままでは母も子も死んでしまうため、すぐに緊急帝王切開を行なった。

お腹を開け、骨盤に詰まっていた子どもを取り出すことには成功したが、残念ながらすでに死亡していた。閉腹し、手術を終えたものの、母猫も数時間後に亡くなってしまった。

飼い主は「まだこんな小さいのに妊娠するなんて思わなかった」と、幼い体を妊娠させてしまったことを悔やんでいた。新しくメス猫を迎え入れた時点で、先住猫の去勢をしていれば、防げた悲劇だった。

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